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「物理学の世紀を超える物作り」

高島屋日発工業株式会社 取締役社長 野田 直樹(の だ なおき)

昭和18年9月 愛知県生まれ
昭和37年3月 東海高校 卒業
昭和43年3月 名古屋大学大学院工学研究科 修了
昭和43年4月 トヨタ自動車工業株式会社 入社
平成08年6月 トヨタ自動車株式会社 取締役就任
平成13年6月 高島屋日発工業株式会社 取締役社長就任
現在に至る

 20世紀における物理学の驚異的な発展は、人類社会に絶大な影響を与えてきた。
 今、私たちの回りは、物理学の成果を基に生み出された製品で埋まっている。しかし一方で、若者の理科離れが益々深刻になっている、と聞く。データで見ると小学生の80%、中学生の50%が理科好きなのに、高校生になると受験勉強も絡み、急速に理科離れが進むらしい。教育制度も変化し、1960年代の高校普通科には100%あった物理の授業が90年代には選択科目になり、20%以下の選択率となって、物理離れが一層進んだ。そして今や大学の理系学部でも物理を高校で学んでいない学生が1/4を占める時代である。
 物理学の成果と理解度を身の回りで確認してみよう。洗濯機や電気釜は原理も構造も完全に理解できた。ラジオには高度な物理学が隠されているが、分かる気がして違和感は無かった。冷蔵庫と蛍光灯はちょっと難しいが、まあ納得した気分になれた。テレビやVTRは物理学が大活躍する道具だが、用途が単純なため疑問は浮かばなかった。しかし電子レンジは高度な物理学のど真ん中に万人が物を入れて使う道具ゆえに様々な問題が生じた。雨でびしょ濡れになった愛猫を電子レンジで乾かしたご婦人がいて、それ以来メーカーは、猫を入れないで下さいという注意書きを付けたと聞く。
 パソコンや携帯電話は完全にブラックボックスで、原理や構造を考えるより、いかに使うかに努力する方が賢明と言えそうである。原子物理学・電磁気学とコンピュータ工学の応用の極致とも言える最新医療機器に関しては、もうただただ感謝しながらその恩恵に浴するのが大人の態度かも知れない。病院でMRIによる検査を受けた際に医師と技師にその原理を尋ねたが、理解不能だった。製品に多様な技術を複合して応用する事が、理解を困難にしている一因であろう。こんな状況の中で、若者は原理や仕組みを考え理解することを止め、その製品をいかに上手く使うか、に物への関わり方を変えつつある。「私は使う人」、「あなたは作る人」と考えるのもある意味で自然かつ合理的なのかも知れない。
 ところが、製品の安全と環境保全まで考えることが必要な「作る人」の世界にも、物理離れが浸透しつつある様に思える。CADを使えば3次元の設計が容易にでき、CAEで一見充実したシミュレーションとバーチャル評価が可能になって、開発設計業務は誰にも効率的に実行可能となった。しかし製品が市場に出てからこれらのプロセスとツールでは見つけられない要因で問題を起こす事例も少なくない。製図ツールと言うべきCADと、組み込んだロジック以外には無力なCAEでは、開発設計ツールとして不十分である。物に内包された問題の芽や未経験の新しい問題の可能性を、材料や構造のみならずその製品の使われ方まで予測して、問題を未然防止できるのは、物理学に根ざした眼差しだろう、と私は考える。
 では、物理学の視点で物を捉える能力を高める為に何をなすべきか?
 私はまず、物理の授業を飛躍的に楽しく充実した「生きた物理学」にする事を提案する。
 教科書を丸暗記させ、原理と結果の分かった実験を見せる教育から、解のわからない命題に仮説を立て、実験を通して確認し、仮説の適否を考察する教育の充実を望む。家庭では、理科離れ前の年代の両親が、物に即して子供に理科・物理の心を説いて欲しい。
 企業における仕事の場では、仮説を立て検証し考察するこのサイクルをしっかり回す環境を作って物理学の目を磨きたい。こうして、学校と家庭と企業の連携で若者の物理学への関心を高める事を期待する。新聞にもこうした試みが各地に広がりつつある事が時に紹介されている。私も企業活動の中のみならず、ボランティア的にもこうした活動を広げることに努力したいと念じている。

(次号9月号は、(株)槌屋 取締役社長 大原康之 様にお願いいたします。)