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「名古屋城本丸御殿雑感」

株式会社みずほコーポレート銀行
         執行役員 名古屋営業部長 伊藤  薫(いとう かおる)

株式会社みずほコーポレート銀行 執行役員 名古屋営業部長
昭和28年4月9日 神戸市生まれ
昭和51年3月 慶応義塾大学 経済学部卒業
同 年   4月 株式会社日本興業銀行 入行
昭和60年4月 同行 名古屋支店
平成 2年12月 同行 ロンドン支店 プロジェクトファイナンスチームヘッド
平成11年 2月 同行 業務部 副部長
平成12年 4月 同行 産業調査部長
平成14年 4月 株式会社みずほコーポレート銀行 産業調査部長
平成15年 4月 同行 名古屋営業部長 
平成16年 4月 同行 執行役員(名古屋営業部長委嘱)
現在に至る

 先日、昼の会合で名古屋市の松原武久市長の講話を伺う機会があった。内容は11月2日に開園した徳川園の紹介を中心としたものであったが、加えて来年2月に完成する白壁町の二葉御殿(旧福沢桃介、川上貞奴邸)に触れ、最後に「今後の文化施設の重点整備は名古屋城本丸御殿の再建」に移るというコメントがあった。
 「本丸御殿」と聞いて忘れかけていた血が騒ぐような思いに囚われた。というのは、前回名古屋に勤務した平成元年ごろ、御殿再建運動に関係していたことがあるからである。当時、部外者でありながら本丸御殿シンポジウムなどに顔を出し、中日新聞紙上で本丸御殿の早期再建を訴えたりした。しかし当時は市役所も財界も市民運動の盛り上がりも今ひとつで、実現への道筋を付けることは出来なかった。
 今回着任して調べてみると、15年前とは様変わりのかなり着実な進展を遂げている。市は「新世紀計画2010」に御殿復元を明記し、先行する障壁画の復元模写作業も既に234面が完成している。平成14年からは本丸御殿積立基金による寄付募集も開始されている。市民ボランティア団体の「本丸御殿フォーラム」も活発な活動を展開している。
 しかし、いったいいつ建物工事に着手できるのかという点になると、「本丸御殿は江戸時代に20年程をかけて造られた建物であり、今回の復元も相当長い期間が必要になる」と歯切れが悪い。  
 確かに800面を予定する障壁画の模写だけでも10年以上の長期間を要するであろうが、それは着工を決められない理由ではない。やはり平成12年から赤字に陥っている名古屋市の財政難が足かせになっているものと思う。総事業費150億円の復元計画を今予算化するのは難しいので、寄付が集まるのを待ってガウディのサグラダファミリア教会のように市民の手で少しずつ造ろうと言うのであろうか。
 私はむしろ玄関と表書院など御殿の一部だけに絞って予算化し、まず着工に持ち込むべきであると思う。世間に知られていない文化財を形にすることにより、その先の展望が開けてくると考えるからである。建物が出来れば全国に向かっての発信力は格段に違ってくる。
 例えば京都の二条城は年間120万人の観光客を集め推定6億円程の収入を上げている。現在でも約100万人の入場者のある名古屋城は本丸御殿の一部完成で更なる観光客を十分集められるはずである。またイギリスの大英博物館はフロアーを夜開放して企業や団体のパーティー会場に提供しているが、本丸御殿も表書院のバックを一時的にパーティー会場にして収入を上げるといったアイデアもありうる。文化庁が許可しないと言われるが、名古屋城を構造改革特区に申請して規制緩和の特例を受けることは出来ないだろうか。
 見方を変えれば寄付にしろ市の予算化にしろ、地元の力だけで造らねばならないという潜在意識が強すぎるように思われる。本丸御殿を見に来るであろう人々は大部分が地元外の観光客であり、彼らに復元コストの多くを負担させるという発想が必要ではないか。また名古屋にあるこうした隠された文化財に対する評価は、地元の人々が考えている以上に外部の者のほうが高いということも申し添えておきたい。
 松原市長は、「文化は都市の品格を決め、人を呼び込む力を持っている」と発言しておられた。まさにその通りだと思う。多くの隠された文化財を有する名古屋は、これらを上手に活用する知恵と工夫が求められる時代に入ったように感じられる。

(次回来年2月号は、株式会社名古屋観光ホテル 取締役社長 藤森 源久様にお願い致します。)