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会報

『BCP(事業継続計画)の策定の留意点』
   〜中小企業が緊急事態を生き抜くために〜

株式会社三菱総合研究所 安全政策研究本部 
         社会安全事業グループ  主任研究員 辻 禎之

 地震災害、風水害など企業が遭遇し得る緊急事態に際して、事業中断を最小限に止め、被害を最小化するための危機管理手法として、BCP(事業継続計画)の策定が注目されています。先日発生した新潟県中越沖地震において、自動車メーカーの生産ラインがストップするという事態が発生するなど、BCPの策定は喫緊の経営課題といえます。
 そこで、特に中小企業が計画を策定する際の留意点などについて、三菱総合研究所の主任研究員の辻禎之氏に解説いただきます。

BCPとは

 BCPは、事業継続計画(Business Continuity Plan)の意味で、緊急時(地震、水害、感染症等)でも中核事業を継続・早期復旧するための計画である。その結果として、企業の倒産を防ぐとともに、企業価値や企業の信頼性が高まることが期待できる。中小企業にとっては、緊急時を乗り切ることや中核事業を守ることは、企業存続そのものである場合が多いことから、中小企業庁ではBCPを「緊急時企業存続計画」と呼んでいる。
 BCPのポイントを簡単に言うと、何を(中核事業)、いつまでに(目標復旧時間)、どのように(資源確保)の3つの観点から事業継続(または事業復旧)を検討し、顧客等の利害関係者と緊急時サービスの共通認識を持つことである。

BCPの必要性

 企業にとってBCPが必要な理由は、端的に言えば、緊急時における企業が被る被害を低減するためには、機会損失の低減に資するBCPが不可欠だからである。
 阪神・淡路大震災では、建築物や設備、在庫・材料等の被害を含むストック損失(約2兆6000億円)と事業中断等を含む機会損失(約2兆6000億円)がほぼ同程度となっており、ストック損失の低減を主な目的とするこれまでの防災計画や防災対策では、震災時に企業が被る被害の半分程度しか低減されない。また、東海豪雨等の水害では、ストック損失よりも機会損失が大きくなる可能性があることが指摘されている。
 新潟県中越地震では、新潟県内の企業の事業中断により、新潟県外の四輪車メーカーや二輪車のメーカーの生産ラインも全面または部分的に停止し、事業中断による被害が発生した。先日発生した新潟県中越沖地震でも自動車業界で同様の被害が発生している。サプライチェーンで繋がった企業間では、被災地内外にかかわらず、ある企業の事業中断により他の企業の事業中断を引き起こす可能性があり、このような事態に備えるためにもBCPが必要である。
 BCPの必要性に係る以上の話は、大企業も中小企業も同じである。一方で、中小企業に特徴的な理由としては、中小企業は大企業よりも財務基盤が弱いため、事業中断が企業倒産に至りやすいことや、緊急時の事業継続力が大企業からの発注に影響を与える可能性等が挙げられる。
 また、2006年に中央防災会議が決定した「地震防災戦略」では、『十年間でほぼ全ての大企業、過半数の中堅企業がBCPを作成する』と掲げている。大企業が自らのBCPを策定した後には、協力会社である中小企業にもBCPの策定を要請することが予想される。
 例えば、大企業の工場を再開させるためには、協力会社の部品供給等が重要であることからも、大企業の事業継続には中小企業の事業継続が不可欠となるからである。

BCPの狙い・導入効果

 BCPの狙いは、緊急時において図1におけるラインAやラインBのような事業回復を図り、機会損失を最適化することである。機会損失は、図1の灰色の面積にほぼ比例する。BCPではこの灰色の面積を小さくするために、@の矢印のように初期の操業度合いの低下を抑えて曲線の底上げを図る方法と、Aの矢印のように早期に事業を回復させて曲線を右側に移動させる方法の組合せにより、事業継続や早期復旧を図る。


        図1 BCPによる事業回復のイメージ  

「仕事」マップの例

       注)「中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)」を参考に作成した。


 BCPの導入効果イメージは表1、2(中小企業をイメージ)の通りであるが、図1における「BCPなし」と「BCP導入済」の違いを表現している。


      表1 BCPの導入効果イメージ(地震時、製造業の場合)

「仕事」マップの例


      表2 BCPの導入効果イメージ(地震時、卸・小売業の場合)

「仕事」マップの例

    注)表1及び表2は、「中小企業BCP策定運用指針(中小企業庁)」を参考に作成した。
BCPの策定の留意点

 ここでは、主に中小企業を想定したBCP策定における主なポイントや留意点を整理する。BCP策定の具体的な方法等は、以下のガイドライン(WEBで公開)を参考にされたい。
 
  ・内閣府ー事業継続計画ガイドライン(H17・8)  
  ・経済産業省ー事業継続計画策定ガイドライン(H17・3)…情報セキュリティ対象
  ・中小企業庁ー「中小企業BCP策定運用指針」(H18・2)

(1)経営者の関与(BCPは経営判断を伴う)
    昨年度に実施した全国10箇所で中小企業向けのセミナー(中小企業庁の事業)では、経営者から
    とにかくセミナーに参加してマニュアルなりをもらってくるように、という指示を受けた参加者も散見
    された。経営者自身がBCPの必要性やBCPはもらってくれば済むものでないこと等を理解しない
    限りは、BCPの策定が頓挫する可能性が高い。BCPは中核事業の選定や対策に係る投資判断等
    の経営判断を多く含むため、経営者の関与は不可欠である。
     また、経営者が重要性を理解しない活動に対して、全社的な協力を得ることは難しい。このため、
    従業員に対して、経営者自らがBCPの重要性を語ることが重要である。

(2)社内体制の構築  
    企業における各種活動が円滑に実施されない場合の理由として、社内体制が構築されていないこと
    や、十分な権限が与えられていないことが挙げられる。BCPでも同様であり、経営者をトップとする
    BCPの策定・運用に係る社内体制を最初に構築し、全社的な協力が得られるような権限を付与する
    ことが求められる。

(3)顧客等と認識を共有すること
    中核事業の選定や目標復旧時間等については、顧客や協力会社との認識共有が必要である。自社
    単独で目標等を設定した場合には、顧客にとって不十分なレベルで評価されない場合があること
    や、協力会社の事業継続が確保されずに自社の事業継続も危うくなる可能性があることから、事業
    継続ではサプライチェーンを想定した検討と関係者の認識共有が求められることは明らかである。
      認識の共有にあたっては、目標復旧時間といった指標だけでなく、緊急時の連絡手段(電話、いざ
    となればバイク等)や相互応援の内容(顧客からの要員派遣等)についても認識の共有が必要で
    ある。
     また、指標についても、目標復旧時間だけでなく、緊急時に提供できるサービスレベル(SLA=
    ServiceLevel Agreement)についても認識共有が必要である。

(4)顧客を不安にさせないこと
    特に中小企業にとっては、顧客からの信頼失墜やそれに伴う発注打ち切り等の回避は、BCPでも
    極めて重要な事項である。そのためには、事業継続は勿論のこと、顧客を不安にさせないために
    連絡体制等も検討する必要がある。表1、2でも明らかな通り、顧客と長期間連絡できない場合
    には、発注を打ち切られる(他社への切り替え)等の可能性もある。

(5)緻密になりすぎて諦めないこと(まず策定してみること)
    特に中小企業では、BCPを策定するための十分な人員や時間等の確保が容易ではなく、BCPを
    緻密に検討すると途中で中断する場合がある。
      例えば、建物や設備等の被害想定を厳密に検討することが難しい場合には、一般的なコンクリー
    ト建物の被害率を引用する等の柔軟な検討が求められる。理論的な方法が分からない場合には、
    経験等を踏まえて関係者で相談することでも構わないため、まずはBCPを一度策定してみることが
    重要である。全体の中で精度が劣る部分は、BCPを策定した後に全体のバランスをみて修正すれ
    ばよい。

(6)公開情報を活用すること
    BCP策定で難しい点としては、「目標復旧時間の設定」「危機発生時の影響評価」「中核事業の
    抽出」という声をよく聞く。「目標復旧時間の設定」に関しては、中小企業BCP策定運用指針(中小
    企業庁)等で過去の参考事例が公開されている。「危機発生時の影響評価」については、各自治体
    の地震被害想定調査の震度や建物倒壊率、ライフライン支障率等の公開データが参考となる。
     また、最近では業界団体や自治体から、業種別や地域の特徴を踏まえたBCPガイドラインも公開
    されており、このようなガイドラインも参考となる。更に、初動対応をサポートするための従業員の
    携行カードの雛形等は、自治体の地震対策のホームページ等で公開さている場合もあり参考と
    なる。他にも様々な参考資料が公開されているため、自治体の防災ホームページにアクセスする
    ことをお勧めする。

(7)商工会議所等を活用すること
    商工会議所や自治体等の中には、自ら中小企業向けBCPセミナーや、中小企業の相談相手を
    育成する目的から経営指導員向けの研修会を開催している場合がある。また、大学等も参加した
    自主的な研究会を開催している場合もある。情報収集や相談にのってもらう意味でも、これらの
    活用が有効である。
     また、事業継続のための対策や地域貢献等は、商工会議所等の単位で協力体制を検討する
    ことや、備蓄等の準備をしておくことが有効な場合も多い。商工会議所等を活用した緊急時の協力
    体制を考える場合には、商工会議所等のBCPも策定しておく必要がある。

(8)普段からの付き合いを大切にすること
    従業員や協力会社等との普段からの付き合いを大切にすることは、緊急時のリソース確保が容易
    でない中小企業にとっては特に重要となる。
     例えば、従業員の参集だけでなく従業員の家族が炊き出し等を手伝ってくれそうか、協力会社等
    が本当に助けてくれそうか等の問題は、普段の付き合い次第である。緊急時の連携プレーは、普段
    の信頼関係の延長にある。また、過去の被災事例では、日頃の人脈や情報網により必要な情報を
    円滑に収集できたという企業もあった。日頃の付き合いに比例して情報が入ってくるという好事例
    である。

おわりに

 アンケート等によっても異なるが大企業でもBCPを策定した企業は未だ数割程度であり、中小企業では極めて少ないのが現状である。BCPは事業の弱点や事業復旧目標等、社外秘に準ずる情報が多く一般的に公開されない。このような理由により具体的なBCPの事例を挙げることは差し控えるが、その必要性や狙い、効果、留意点等は既に述べた通りである。本稿が中小企業のみならず、BCP普及の一助となれば幸いである。