「今夏の組合定期大会の動向と労働運動の新たな方向性」
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員
月刊「ビジネス・レーバー・トレンド」編集長 荻野 登
今年の主要労組における定期大会もほぼ終了しました。今回は、労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員の荻野 登氏に各労組の定期大会において議論されたテーマから、今後の労働組合の動きについて解説していただきました。また、連合は組合組織率の低下に歯止めをかけるために、パートタイマーの組織化に力を注いでおります。こうした動きの現状と留意点についてもあわせて解説いただきました。
闘争体制の再構築が新たな課題に
今春の賃金交渉で、多数の産別はほぼ5年ぶりに賃金構造・カーブ維持以外の「賃金改善」を求める方針を打ち出し、これに沿って要求する単組が多かった。その結果、連合の7月末時点での賃上げ集計(回答)によると、昨年との比較が可能な4149組合で5289円、1.82%、前年比399円増(0.13ポイント増)となり、「賃金改善分」が把握できる1133組合では983円(単純平均)となった。この結果を踏まえ、連合は07春季生活闘争に向けた課題として、「賃金制度を含め、多様化している実態を踏まえ、相場形成と波及効果をより一層高める共闘組織のあり方を検討する」などとする今季交渉のまとめを8月25日の中央執行委員会で確認した。
こうしたなか、賃金交渉のリード役である金属労協や各産別の夏の大会では、賃金闘争のあり方や闘争体制の再構築に関する議論が浮上した。それは、久し振りに賃上げの有額回答を多くの組合で引き出したものの、回答水準や内容がバラつき、統一闘争の見直しを迫られる組織が続出したためでもある。
金属労協が政策・労働条件面の活動の場を連合部門連絡会に移行へ
今季交渉でいち早く「賃金改善」による要求スタイルを打ち出し、今季交渉のけん引役となった金属労協(IMF-JC、200万人)は9月の定期大会で、政策・制度の実現、さらには労働条件関係についても、連合の「金属部門連絡会」に基本的な活動の場を移行することを確認した。これは組織の機能強化と運動の質的転換をテーマに2年間議論を重ねてきた総合プロジェクト会議の答申に沿ったもの。答申は早急に連合に対して、産業ごとに7つ設定されている「産業部門連絡会」について、連合の組織運営基盤として機能するよう働きかけを強めると同時に、これまで実質的には金属労協内で取り組んできた「政策・制度」の実現については、独自の取り組みとの重複を避けるために「金属部門連絡会」に活動の場を移行するとしている。さらに、将来的には春季交渉時の要求策定とも関連する雇用・労働条件の議論も部門連絡会に移行することも視野に入れている。
これまで連合の春季交渉では、要求・妥結は産別自決、連合は連絡・調整という役割分担が確立していた。しかし、金属労協の主力産別である鉄、造船、非鉄で構成する基幹労連が隔年闘争(来春は賃上げ要求せず)へ移行したことなども影響し、賃金交渉におけるJC共闘の求心力低下は避けられない。こうした事情もあり、連合への機能移転を打ち出したといえる。金属労協の答申は、連合結成当初の産業別部門連絡会の強化という「あるべき論」に戻す主張とはいえ、労働界に波紋を投げかけることは避けられない。
職種別賃金要求の検討を急ぐ電機連合
電機連合(約60万人)の定期大会では来春闘から「職種別賃金」へ移行することを決めた。その背景には、統一要求・統一回答が前提だった電機の労使交渉に大きな亀裂が生まれたことがある。今季交渉で電機連合は「35歳技能職または30歳技術職の水準」をポイントに2000円改善(賃上げ)する産別統一要求を掲げ、交渉に臨んだ。5年ぶりとなる統一要求だったが、16の大手メーカー労組で構成する中闘組合(サンヨー労組は要求せず)に示された有額回答は、1000円と500円に二極分化。口頭確認とはいえ産別としてスト回避基準を1000円に設定していたにもかかわらず、回答がそれを下回った場合、電機連合はストに入ることになっているが、分裂回答を受け入れた。集中回答日に中村正武代表は「統一要求や統一闘争組織のあり方について議論を早急に進めていきたい。今後は、職種別賃金についても検討を急ぎたい」と述べ、統一闘争や要求のあり方についての抜本的見直しを示唆していたが、その方向性を今夏の大会で提起した
大会で決定した運動方針では、「賃金要求方式については、2007年闘争から職種別賃金要求方式に移行(個別賃金要求における「職種基準」を確立)する」としている。今回、打ち出された職種別賃金要求方式は、技能職と技術職からそれぞれ代表職種を選択し、賃金要求するという考え方。技能職は製品組立職、監督指導職、技術職はシステムエンジニア(SE)、開発設計職の4つが代表職種として提案された。本部では、これらのなかから、各単組が代表職種を選択し、職種ごとにレベル1?5で規定した能力基準と組み合わせ、賃金要求を設定する試案を示している。大会の段階では、考え方の大枠を示しただけだったため、9月末に臨時開催する代表者会議で要求方式などの具体的な方針を決定する。中闘組合には条件が整ったところから来春以降、順次要求方式を移行するよう求めている。
電機連合が加盟する金属労協も、新しい共闘軸に「大くくり職種別賃金水準の形成」を掲げている。その具体策として、来春交渉に向けて単組ごとに設定した「技能職中堅労働者」などの職種別賃金について、産業・業種内における相対的な位置づけを判断するための「比較指標」の作成に着手する。この指標は、賃金の実態データに基づき、産業・業種別のほか規模別に賃金の特性値を示すもので、産別や企連・単組の要求策定の参考指標として活用する。このため電機連合の取り組みが金属労協の先導役となるものとみられる。
来春交渉に向けた要求の方向性組合運動
連合の高木剛会長は主要産別の来賓挨拶で「景気や企業の業績見通しを踏まえると、来春も何らかの賃上げ要求をする方向で検討が進むだろう」との見通しを述べている。金属労協の大会で加藤裕治議長も「金属部門としては来年も『賃金改善』に取り組むことを前提に考えていきたい」と述べるなど、労働界は今後、賃上げを盛り込んだ要求策定論議が進むことになりそうだ。その根拠としては、産業間・企業間・規模間の格差是正の視点とあわせて、上昇傾向にある物価を織り込んで考えるべきだとする主張も強まっている。
連合では、正規・非正規の雇用形態間、さらに大手と中小の規模間の格差是正の取り組みを推進するため、「中小共闘」と「パート共闘」を春季生活闘争の主軸とする意向だ。しかし、来春は、基幹労連が要求しない年にあたるため、金属労協の春季交渉における求心力低下は避けられず、連合にその役割を期待する声も強まっている。パート、中小以外で連合が果たすべきナショナルレベルの役割として、最低賃金の取り組み強化を求める主張も出ており、来春交渉では、企業内最賃や年齢別最賃が3本目の柱として浮上することも考えられる。
さらに、各産別とも長時間労働是正の観点からワークライフバランスを要求に盛り込む動きが顕著になっている。高木連合会長は各産別大会で「時間外労働を削減する観点から時間外割増率の引き上げについて前向きに議論して欲しい」と提起している。いずれにしても、労働時間関係の要求も来季交渉の焦点になるだろう。
今夏の組合大会を振り返ってみると、産別共闘や闘争体制のあり方の見直しが始動したとみることもできる。来年は連合(民間)が結成されて20年周年。そして07年問題は労働界にとっても無縁ではなく、世代交代が必然的に進む。来年以降、運動のリセットを意識した取り組みが加速することも考えられる。
≪パートタイマー組織化の動きと留意点≫
連合は2年で12万人を目標、UIゼンセン同盟は1年で8万人組織化達成
18.7%まで低下している組合組織率に歯止めをかけるため連合は、パートタイマーの組織化を最大のターゲットとしている。昨年6月時点でパートの組合員数は約39万人で、組織率は3.3%と低率。1200万人のパートの取り込みなくして、組織率の反転上昇は事実上、難しい。連合は昨年10月の大会で、2年間で「60万人(うちパート等12万人)+α」を目標とする組織拡大計画を決めた。今年3月末の集計によると、半年間で7万5000人を組織化。計画達成率は12.5%と低いが、パート・契約・派遣労働者が4万725人を占めていた。そして、この数の9割以上を占めていたのが民間最大産別のUIゼンセン同盟と百貨店・スーパーなど流通関係を組織するサービス流通連合(JSD)だった。
さらに9月に開かれたUIゼンセン同盟の大会では、パートで約7万8500人を組織化し、正社員の組織化を含めて過去最多となる10万85人の新規加入が報告された。パートのなかではイオンの4万2000人、イトーヨーカ堂の1万5000人、マイカルの1万人など、大手スーパーの組織拡大が貢献している。UIゼンセン同盟のパート組合員数は40万人に近くのぼる。JSDのパート組織率も高く、職場に働くパートの3人に1人が組合員という状況になっている。
取り組みが遅れていた製造業労組でも、組織化の動きがでている。自動車総連は昨年の大会で非典型労働者の産別会費を月額200円とする規約改定を行い、各組合が組織化に着手。トヨタ労組では10月から、同社病院のパート看護師ら約110人をメンバーに迎え入れる。日産労連もパート組合員の権利・義務、会費などの規約改正を済ませるなど、各メーカー労組でも非典型労働者組織化の動きが広がりそうだ。
組織拡大の手法と留意点
単組がパートの組織拡大を図る際、最近みられる手法が、組合員区分の見直しによる対象の拡大である。たとえば、これまで大手スーパーでの組織化対象は、社会保険が適用される長時間労働パートが中心だったが、対象をより労働時間の短いパートにも拡大することで、組織拡大するケースが多い。
また、新たな動向としてナショナルセンターが地域組織強化の一環としてパート組織化に力点を置きつつあることも注視する必要がある。全労連は7月の定期大会で、非正規労働者の組織化を本格的に推進するため、「全労連非正規労働者部会」の設置を決めた。全労連は2010年までに非正規労働者35万人の組織化を目標に、「単産の下部組織やローカルユニオンに地域の非正規労働者の結集をはかる」としている。連合も地方連合会の下部組織である地域協議会(地協)の機能強化策として、10月から「モデル地協」として約100組織を立上げ、専従者の配置を決めている。相談窓口としての機能に加え、中小・地場での組織拡大の拠点とする考えだ。こうした地域組織の動向にも留意する必要がありそうだ。
組合の動向にかかわらず、新たな組合結成の場合、処遇に関する苦情に端を発するケースがほとんどだ。パートは数の増加とともに、かつて正社員が担っていた業務や役割を担う「基幹化」も同時進行していることが多い。正社員とパート間の職務の同一性の判断方法を示した改正パート労働指針では、「職務内容の範囲」を比較することが必要だとしている。正社員の仕事と重なりがあり、それに見合ったパートの処遇見直しが進んでいない場合、パートの不満を増長させる可能性も大きくなる。正社員の賃金制度が成果主義の浸透で「仕事」基準にした移行した企業が増えるなか、パートだからという理由だけで、処遇差を説明し、納得させるのは難しくなってきていることにも留意する必要がある。

