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会報

「均等法の改正と今後の企業経営を考える」

成城大学法学部 教授 奥山明良

 男女雇用機会均等法が昭和61年に施行されて本年で20年を迎えました。先の国会においては「間接差別の禁止」「妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止」などを内容とする改正均等法が成立(施行は平成19年4月1日)しました。
 本稿では、「均等法の改正と今後の企業経営のあり方を考える」と題して、成城大学法学部の奥山教授から、改正均等法が今後の企業経営に与える影響や企業経営の活性化のため、男女ともに働きやすい職場とするにはどうすればよいか、などについて解説していただきます。

均等法の20年?その制定と改正

 平成18年の第164回通常国会に均等法の改正案が提出され、参衆両院で審議の結果可決・成立し、6月21日法律公布となった(施行は平成19年4月1日)。周知のとおり、昭和60年に制定された均等法は、その施行後20年が経過した。とはいえ、制定当時はわが国企業社会がまだまだ長期雇用や年功処遇のシステムを基軸とし、また社会に見られる男女役割意識の固定化の下で女性の就業が結婚や出産までの一時的なものであったことなどから、均等法自体の内容も雇用における男女の均等な機会と待遇の実質的な確保という観点からは必ずしも十分なものではなかった。そのため、平成9年には女性差別禁止規定の強化(募集・採用、配置・昇進における差別の禁止規定化)、女性のみ・女性優遇措置の是正、法違反に対する企業名公表、ポジティブ・アクションの積極的取組み、セクシュアル・ハラスメント防止のための事業主の配慮義務等を主要な内容とする改正が行われた。この改正により、均等法は、それまでの「女性労働者の福祉法」から「女性労働者に対する差別禁止法」へと、法の基本的理念と目的を変えることとなった。

企業を取り巻く環境変化と雇用新時代の到来

 以上のような、均等法の制定とその後の改正に至る背景には、わが国の企業社会と働く男女を取り巻く経済社会環境の変化があったことはいうまでもない。こうした変化は、今日では第三次産業を中核とした経済のサービス化・成熟化をはじめ、企業活動の国際化や競争の激化、少子高齢化、高学歴化、就業意識の多様化、長期に亘った景気後退さらには規制緩和の推進等の諸事情を背景に急速かつ大幅なものとなっている。なかでも、少子高齢化の急速な進行と景気後退による企業業績の悪化は、わが国企業の多くをして、それまでの伝統的な人事管理の制度や慣行について見直しを余儀なくさせ、いわゆる「雇用の流動化」と呼ばれる雇用・就業形態の多様化を進めさせるところとなった。

 その結果、現在、多くの企業では、人材の確保や活用面では、長期雇用を前提とした雇用・人事管理のシステムから、新たに「必要な期間、必要な人材を必要な人数だけ確保する」といった短期的サイクルの下での雇用・人事管理システムへの制度の見直し(新卒者の大量採用や定年制、研修制度等の見直しなど)が進められるとともに、労働者の評価や処遇面でも、従前の勤続や年齢、家族構成をベースにした年功処遇の制度(勤続給・生活給等)から労働者個々人の仕事や能力、成果に基づいた個別処遇の制度(職務・職能・成果給等)への転換が図られてきているところである。

人事管理の個別化と女性の積極的な能力発揮の重要性

 このような雇用・人事管理上の制度変更は、労働者の側からは時として突然の人員整理や非正規への雇用形態の変更、基本給の引下げ、一時金・退職金の減額等といった雇用不安や労働条件の不利益変更等につながることもあり得る。しかし、他方では労働者の評価と具体的処遇が、単に勤続や年齢といった年功重視ではなく、基本的には個々人の個別能力や成果重視(いわゆる人事管理の個別化)で行われることから、むしろ全体としては個々の労働者にとって仕事に対するインセンティブやモラールを高めることにつながるものといえる。

 加えて、こうした「人事管理の個別化」は、何より女性労働者にとっては、わが国企業社会に伝統的にみられた「男性」中心の処遇制度から、性別を問わない「個(人)」中心の処遇制度への移行(人事管理の「性別」基準から「個」の基準への移行)につながることから、職場での男女の対等な関係の形成と労働の担い手としての女性の意欲・能力の積極的な発揮への期待を高めるものといってよい。しかも、近時の少子高齢化の急速な進行がこうした状況を加速させてもいるのである。

均等法のさらなる改正?その概要と企業経営への影響

 今次の均等法改正案は、以上のような企業及び働く男女を取り巻く多様な環境変化を背景にしつつ提出されたものである。今次の改正は、前回の改正以上に重要な内容を含んでおり、とりわけ経営側にとっては留意すべき点が多い。

 まず、第一に、均等法の「男女双方への適用」である。今次の改正により、均等法は前回改正の「女性差別禁止法」から名実ともに「性差別禁止法」として機能することとなり、今後は男女双方に対する差別の禁止となる。なお、この改正にともないセクシュアル・ハラスメントに対する事業主の防止措置は新たに男性も対象とされる。第二に、差別的取扱いを禁止する雇用ステージの明確化・追加の目的から、配置差別として「業務配分及び権限の付与」が含まれること、昇進差別に関連して「降格」や「雇用形態・職種の変更」も差別禁止の対象となること、さらに「退職勧奨」や「雇い止め(労働契約の更新拒否)」に関する差別も禁止の対象となることとなった。企業サイドとしては、これまで以上に労働者の雇用管理区分の要件基準を明確にしておくことが必要になったといえる。第三に、「間接差別」の禁止がある。間接差別とは、一般に雇用上の処遇決定に際して、その要件として「性中立的基準等」を設定するも、それが男女の一方のグループに対してのみ相当程度の不利益効果や結果をもたらす場合には、当該基準等が職務遂行に関連性があるなど「合理性・相当性」が認められなければ、違法な性差別となるというものである。これまで、均等法が禁止の対象としてきた差別は「性(女性)」を理由とした不利益取扱い(直接差別とか意図的差別と呼ばれる)であった。しかし、今次の改正による間接差別概念の導入により、雇用機会の付与や処遇における男女格差が直接的には性に基づかない場合であっても、要件とされた基準等の性質や適用の効果によっては違法とされる場合があることになり、事業主にとって適切で公正な雇用機会の付与や人事管理制度の確立に大きな影響を与えるものと思われる。ただ、当面は、間接差別の問題は募集・採用における身長・体重・体力要件をはじめ、コース別雇用管理制度における総合職の募集・採用に関する全国転勤要件、昇進における転勤要件にとどめられる。その詳細については省令において明確にされる予定である。第四に、妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止がある。現行では解雇のみが禁止の対象とされているが、今次改正により新たに解雇以外の不利益取扱いも禁止の対象となる。これについても、その詳細は指針により示される予定である。なお、妊娠・出産に関連して、事業主としてより注意すべきは、妊娠中・産後1年以内の女性に対する解雇は、妊娠・出産を理由とする解雇でないことを事業主が証明しない限り、無効となるということについてである。いずれも、近時、働く女性の就業継続が進むなかで妊娠・出産を理由の不利益取扱いに関する苦情・相談の急増に応えた改正となっている。第五に、セクシュアル・ハラスメントの防止に関して、前述のように男性も対象とされるとともに、防止の措置が従来の配慮義務から「措置義務」に変更された。これによって、事業主は、その防止のために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置を必ず講じなければならないこととなった。この改正は、単に均等法上の義務の強化というだけにとどまらず、職場のセクシュアル・ハラスメントが裁判紛争になって使用者に対する民事責任(損害賠償請求)として労働契約違反(債務不履行責任)が追求された場合に、その基準となる「職場環境整備義務」違反の成否を判断する重要なポイントにもなり得る点で、企業サイドとしては十分に留意すべきである。第六として、セクシュアル・ハラスメントに関する紛争や母性健康管理措置が新たに「調停」の対象とされるとともに、その義務違反については「企業名の公表」の対象とされることとなった。最後に、労基法上の女性の坑内労働規制について、女性技術者が坑内の管理・監督業務に従事することができるよう、妊産婦が行う坑内業務及び作業員を除き、規制緩和が行われている。

企業経営の活性化と男女ともに働きやすい職場と公正な処遇の確保をめざして

 以上のように、今次の均等法改正は、その内容において多様かつ影響の大きいものとなっており、企業にとっても人事管理上これまで以上に適切な整備が求められる。
 思うに、企業及び働く男女にとって何より重要なことは、労働者にとっては、その性を問わず個々人が自らの自由な意思と選択に基づく雇用機会が保障され、その意欲・能力に応じて公正に評価・処遇される職場の制度や環境が保障されることであろう。企業としてはこうした制度・環境を早急に整備していくことが大事である。とりわけ、サービス業中心の産業構造や急速に進行する少子高齢化の下で有能な人材を確保していくためには、「男だから、女だから」ということではなく、男女の性にとらわれない人材の確保と活用が今後の企業経営にとって不可欠となろう。

 そのためには、労使ともに「意識の改革」が求められる。これまで、我々の家庭生活その他社会生活関係において男女の意識や行動様式を固定的にとらえてきた性役割意識は、企業・職場では、総じて働く女性を「定着率が悪い」「業務効率が低い」「仕事に対する意欲や責任感が低い」等いわれのない誤解や偏見の下に位置づけ、結果として多くの女性を、その意欲や能力とはかかわりなく、雇用上の機会付与や具体的処遇において男性との間に大きな不利益格差をつくってきた。しかし、これからの厳しい企業間競争の下で企業業績を伸ばしていくためには、こうした固定的な性役割意識の解消を図り、男女を問わず、とりわけ女性の意欲や能力の積極的発揮に取り組むことが必須の条件になってきているといってよい。

 さらに、「働き方」の常識を変えていくことも重要である。これまでのわが国企業・職場での働き方は、総じて男性が中心となって長期雇用と年功処遇の下で会社のため、仕事のために長時間働くというものであった。しかし、こうした働き方では、男性労働者が夫や父親として育児や介護等家族生活のために仕事を休むことは、同人の職場での評価・処遇の低下に直結し、とうていかなわないことであった。しかし、今日、企業と働く男女を取り巻く環境が変化し、男女にとって仕事に対する意識をはじめ、そのライフスタイルが大きく変わってきている状況下では、企業及び働く男女にとって、仕事と生活の両立が可能となるような働き方の実現が何にも増して重要となってきている。企業にとって、男性中心の長時間労働が企業競争に打ち勝ち、業績を伸ばすといった発想はもはや幻想である。企業としては、男女を問わず、個々の意欲や能力に基づいて人材を確保し、各人が仕事と生活の両立が図れるような職場の制度・環境を整備していくことが必要である。こうした働き方の見直しが、今、企業と働く男女に求められているといってよい。