特集 「ホワイトカラーの生産性向上」を考える
労働力不足の時代を迎え、企業は多様な人材の活用が求められていますが、他方、現業・企画管理・営業・研究開発など部門を問わず、生産性の向上、より効率的な働き方を実現することが重要な課題です。特にホワイトカラーについては生産性向上を図るべく抜本的な改革が迫られています。
また労働時間法制においては、ホワイトカラーエグゼンプション制の導入、裁量労働制の緩和など、新たな労働時間制度の改正が厚生労働省において検討される一方で、有給休暇の取得促進など仕事と家庭との調和も求められています。
さらに、昨今の労働行政は過重労働に関する規制がより一層強化されてきているなど、労働時間は短縮の方向へ進み、今後は業務を見直し、限られた労働時間の中でいかに効率的に働き、付加価値を生み出していくかが重要となってきます。
今回の特集では、PART1において“ホワイトカラーの抜本的な業務改革”について、日本能率協会コンサルティングの経営コンサルタント 中田 崇氏より解説いただき、PART2では、ソフトブレーン(株)宋 文洲会長より、“日本のホワイトカラーのムダ”について“直言”していただきます。
<PART1>
戦略体制作りへ向けた「ホワイトカラーの抜本的業務改革」
日本能率協会コンサルティング 経営コンサルタント 中田 崇
今なぜホワイトカラーの業務改革が重要なのか
社員が壊れる」…ある雑誌の特集である。今まさにバブル崩壊以降の苦しい時代に区切りをつけ、各社とも一息つきたいところである。しかし「人員数を減らしたまま」の回復は多大な労働負荷を社員にかけている。労働基準監督署から指摘を受ける企業も多くなっている。「企業は人なり」である。貴重な人材が「壊れて」しまっては企業に成長はない。
問題は社員の負荷だけではない。この過剰負荷により、新しい攻めの業務に時間を割けていないことがより問題である。努力しないところに成果はない。同じく時間を「新しい活動に投入しない」ところに経営の前進はない。貴社は「新しい戦略的活動」にどのくらい時間を投入できているだろうか?
ではこの問題にどう対処するのか。答えは業務改革である。バブル崩壊以降スリム化を図ってきた企業のほとんどは、緊急対策として人員減を行ってきた。しかし労働時間の低減となる業務の改革を行っていない。これでは人を減らした分の負荷が一人一人のオーバーワークになる。各社とも人を増やさずに「新しい攻めの業務を遂行するための余力」を業務改革により生み出すことが不可欠となっている。
少子化時代をにらみ、各社とも優秀な人材をいかに確保するかが不可欠の課題である。今こそ社員の業務を改革し、労働時間の負荷を下げるとともに、新しい戦略を遂行する過程を通じて人材の育成をはからねばならない。ドラッカーの言葉を思い出そう。「先進国における中心的な課題は、もはや単なる肉体労働の生産性の向上ではない。すでにわれわれはそのための方法を知るにいたっている。これからの中心的な課題は、知識労働の生産性の向上である。すでに先進国では、知識労働者が労働力人口の中核を占めている。…そして、まさにそれらの人たちの生産性にこそ、先進国の生存と繁栄がかかっている。」
(P.F.ドラッカー著「明日を支配するもの」)
どこに着目すれば業務改革が可能なのか
では各人の業務時間を短縮するような改革はどうしたらできるのだろうか?次にこの点について考えてみたい。どこに目をつければ改革できるのか。
(1)根本的に業務を「目的」から見直す
バブル崩壊以降、儲からない商品や事業を見直して絞り込んでいくいわゆる“選択と集中”が進められた。では業務そのものの根本からの見直しとしての“選択と集中”はなされただろうか?大いに疑問である。各社とも人員をスリムにした。社員はみなリストラの不安を抱えた。結果自分の従来の業務を守ることが自身のリストラ回避策となった。業務の根本からの目的の見直しは、「自分の業務を切る」ことになり進みにくい。
図2を見てほしい。改善の視点から業務は「目的」達成のために「人」が「方法」を遂行することとして考えることができる。人員削減で「人」が削られ、「方法」に対してIT化が進められた。しかし根本の「目的」が見直されていない。
ある会社でのことである。各現場の作業結果を集計している仕事があった。一日の終わりにチーム別の生産性を点検するために作業時間と出来高を集計し、課長に提出する。この仕事の改善として「集計表のグラフ化」が検討されていた。果たしてこの案でよいだろうか?
担当者がこの業務を「集計表に数値を埋めて課長に出すこと」と認識していたのでは困る。「集計」が目的ではなく、「異常を早期に発見し、その対策を打つこと」が目的である。そして担当者がこのように業務を理解し点検するなら、集計表を作らずともチェックだけでよいのかもしれない。さらには、現場のチームを担当する人が自身でチェックし、それを確認するのでよいかもしれない。
IT系の改善の前に「目的の見直し」が重要である。ホワイトカラーの業務は「努力」が重要なのではなく、結果(成果)が重要なのである。業務の目的追求(結果として出すものは何か、成果は何か)によって、抜本的改革案を発見できるのみならず、各人が業務の貢献を理解し充実感を味わえることとなる。
(2)「発生元、ダイレクト処理」で無人化を追求する
目的の見直しの次は「方法」を検討することになる。このとき抜本的アイデア発見のポイントは「理想の姿」を考えてみることになる。現状の手直し程度ではなく、理想を考えることにより、他社より優れた業務レベルを構築していける。
では理想の姿とはなにか。それは「処理の無人化」である。たとえば営業からの注文伝票などをイメージしてみよう。業務は「顧客↓営業マン↓営業事務担当↓経理↓…」と部門をわたり次々と処理される。この理想としての無人化状態とは「発生元で、ダイレクト処理」されることである。お客様が最初から所定フォーマットにインプットし注文してくれる、もしくは営業マンがその場でインプットする。こうすることで後の処理は無人化される。
そんなことは「わかっている」と言われそうである。わかっているけど、できないから困っているのだ。大切なことは理想追求の意識である。具体的には日々の仕事を「例外の把握とその改善」として認識することである。理想状態はすぐにはできないかもしれない。しかし今のIT化の動向から見るとすごいスピードで実現できるようになる。すでにオフィスの全員がパソコンで業務を遂行している。にもかかわらず生産性があがっていないのはこのような理想追求の姿勢が弱いからともいえる。業務を「手続きの遂行」と考えてはいけない。業務は「自動化に向け、例外を把握し標準化すること」と捉えることが重要である。こう認識することで日々、業務の無人化が追求されていく。
それだけではない。図3を見てほしい。これはある企業の事務部門における業務時間を測定したものである。なんと勤務時間の48%が例外への対応時間となっていた。例外を改善することは理想追求となるのみならず、大きな時間余力を生み出す現実的な改善案となる。日々の業務を「手続きの遂行」と理解することのないように経営幹部は指導してほしい。
業務改革の進め方とそのポイント
業務改革を進めていく主な手順とポイントは次のようになる。
(1)推進のコンセプトづくり
ホワイトカラーの業務改革では、目的追求や例外把握など各人の積極的な協力が不可欠である。このためには、活動が「リストラではない」ことを示す業務改革の“コンセプト”が重要となる。人は自分の職がなくなるかもしれないとの不安が少しでもあれば協力しない。「活動がどのような意図で行われるのか」について経営幹部は社員に明確な形で伝えなければならない。
(2)推進体制と活動の時間確保
何事も努力なくして成果は得られない。各自が忙しい中でも改革活動を着実に進めていくためには、体制をしっかりと作ることが重要となる。事務局、各職場における世話役の体制などである。そして体制が形だけのものにならないように、メンバーにいつごろどのくらい時間を投入する必要があるのかを明確にし、そのための時間を確保していく。
(3)材料づくり(業務の棚卸)
改革をしていくためには、その対象としての業務に何があり、各々どのくらいの時間を要しているのかなど「業務の棚卸」を行う必要がある。単に思いついたアイデアを出すのではなく、自分の業務をすべて書き出し、充実感の少ない業務について目的を見直し、処理型業務については理想状態・例外を検討していく。具体的には図4のようなフォーマットを準備し、体系的に業務を棚卸し点検していく。
(4)改革アイデア出し
改革のアイデア出しは、まず日頃から考えている困ったことについて徹底追求する。次に大きな時間ウエイトのものから順次、時間削減目標を持って検討する。各自でアイデアを考えたのち、皆が集まり、気づいた改革案を交換するとともに、案の出ていない業務について知恵を出し合う。なおアイデアを多く出すためには、図5のような“改善原則”を「なんとしても半分の時間で行う」との決意で、業務一つ一つに当てはめていくことが望ましい。
(5)改革案のとりまとめ
各人の気づいたアイデアには重複もある。またアイデアを文章にすることの苦手な担当者もいる。そこで世話役が各人にヒヤリングし、アイデアを聞き取って改革案にとりまとめる。記述した改革案をもとに、実施のフォローをしていくこととなる。
これらの手順は協力的な部門でテストし、推進のノウハウをマスターしてから進めてしていくことが望ましい。経営幹部の皆さんの指導の下、貴重な社員を一刻も早く楽にし、新しい攻めの活動に挑戦することで、事業発展と社員の能力向上を図っていただきたい。
<PART2>
「日本のホワイトカラーのムダを直言」〜当たり前のことが日本でも〜
ソフトブレーン株式会社 取締役会長 宋 文洲
[1]当たり前のことが当たり前ではない
夕食は家族ととる。休日は家族と過ごす。転勤は家族とともに。こんなあたり前のことは日本ではまだ当たり前ではない。
挨拶の言葉に「忙しい」の単語が頻繁に登場する。「お忙しいでしょう?」は「あなたはとても充実した重要人物ですね」という意味に等しい。お世辞なのにこういう時に限って誰も遠慮なく「やあ、忙しいよ」と自慢げになる。
「家族サービス」という言葉はどこか悲壮感が漂う。ここの「サービス」は自分を犠牲にして相手に奉仕するニュアンスがある。
私は毎日といわないが、週2、3日家族と夕食をとりたい。私は休日にゴルフに行かない。理由は小さな子供と一緒に居られるようなことを趣味にしたいから。農業はそのひとつである。
私は絶対家族とともに転勤したい。たとえ狭くなっても不便になっても。普段から家族とそのような価値観を共有していれば、説得はいらない。当たり前のことだ。
私はとても忙しい時期がある。毎日早く仕事に行き、遅くなって帰宅する。でもそれを自慢するつもりはない。これは特殊な立場にいる私が、特殊な時期におけるやむを得ない事態だと解釈する。いつか早くこのような時期が終わるように、ほかの人たちがこうならないようにと考える。
相手から「忙しい」といわれた時の心情を正直に言うと、実は一瞬暗くなる。「そうか。この方はそんなに大変なんだ」と思うと明るくなれない。これは、日本を深く理解したはずの私が、今でもどうしても感じてしまうことだ。理屈上では、「忙しい」とは単なる「お互いは無駄な存在ではない」と暗示するための挨拶用語だと分かっているにもかかわらずだ。
だから私は忙しくても自ら「忙しい」と言わない。「忙しいか?」と聞かれても「普通です」と答える。私の大変さを相手に伝えることが相手のためにはならないと思うからだ。日本の方々はそこまで難しく考えて「忙しい」という言葉を使っているとは思わないが、違う感じ方があることをお伝えしたい。
家族とは離れ離れ、個人のことを我慢し、ようやく定年退職を迎えると、多くのサラリーマンが直面するのは熟年離婚だ。奥さんと仲良くしたくても、仲良くするためのトレーニングをしていなければ、習慣も身についていないからだ。数十年間の生活パターンが癖になり、女性や地域社会への理解が欠け、料理や洗濯といった生存能力は皆無だ。
[2]日本の発展は本当に滅私奉公の結果か
21年前に日本に来たときのことである。日本が発展した理由を尋ねると大半の方々は「日本人は勤勉だから…」という。この言葉の裏に「発展していない国の人たちは怠けているからだ」という明確なメッセージがある。「企業戦士」という言葉がメディアに頻繁に登場し、「ビジネスマン、ビジネスマン、…」と軍歌のようなメロディが流れ、午前様や単身赴任を意に介せず飛び回るイメージが格好いいとされていた。
日本の総理大臣は当時停滞していたアメリカ経済について「米国人が額に汗をかいて働かないからだ」と断言した。
しかし、周知の通り、そのすぐ直後に15年間にも渡る日本経済の停滞が続き、ようやく最近元気を取り戻し始めたところだ。このいわゆる失われた15年間において日本の人々が怠けたとは思わない。勤勉さを忘れたとは思わない。家族や自分を急に大事にし始めたとは思わない。しかし、やはりこの15年間は本当に長すぎた。5年で回復してもおかしくなかった。できなかった理由は発想の転換だった。
我々は素直に本質を見つめ直す経験を持つようになった。ようやく素直に本質を見つめ直す余裕ができた。日本の発展はいろいろな要因があるが、勤勉は必要条件で、十分な条件ではない。むしろ、勤勉が十分な要因だと思い込んでいるところに停滞の原因が潜んでいる。
「滅私奉公」は個人を滅ぼして公に奉仕するといっている。そんなことができる個人などはいない。そんなことを皆がしてしまうと公は滅びてしまう。個がしっかり自立しない限り、公は独裁であり、全体主義になる。結果として個も公も成り立たない。
[1]で述べた当たり前のことが当たり前にならない本当の理由は戦時中の全体主義、独裁体制の名残であり、多くの年配の方々の精神構造の深部に潜んでいる「美徳」だ。戦後の高度成長は多くの要因によってもたらされたが、その結果を「美徳」のおかげにしたいのが真相だ。
[3]気付かない巨大な無駄
まず残業だ。1000社以上の大手企業にコンサルタントとシステムを提供してきた経験から気付いたが、残業の多い会社には良い会社は少ない。残業の多い部署のトップはマネージメント力が低い。残業の多い社員は面白い人が少ない。また、残業の多い会社は保守的で変革に弱い。
昨日は11時まで残業した。今日も11時まで残業するだろう。そう思う社員は午前中に仕事しない。生物の生存本能が働き午前中から残業のための体力を温存しようとするのだ。
残業したくない人間も残業せざるを得ない場合が多い。仕事が終わっても帰り辛い。なぜならば上司が帰らないからだ。上司がなぜ帰らないかというと意外と上司の上司も帰らないからだ。こういう慣習の企業は今でも少なくない。
次に管理職の無駄だ。
その最もたるものが具体論の弱さだ。精神論と総論に強い管理職が多い。「…すべきだ」、「頑張るんだ」、「結果を出せ」など、一見もっともらしいが、その中から部下は何のヒントも何の助けももらえない。
このような管理職の多さは人件費を圧迫するだけではない。無駄な業務を作り、社員のモチベーションを低下させ、判断の速度を鈍らせることで人件費より何倍も何十倍もの無駄を生み出している。
[4]意外と簡単な処方箋
ここまで読むと暗くなった方も居るかもしれない。ご安心ください。意外と簡単に克服できるのだ。いいえ、日本はもう克服しつつあるのだ。それが今の景気回復のベースになっている。残業を禁止した会社が増えた。有給を消化しないマネージャーにマイナス評価を下す会社も増えた。企業よりも自分と家族を大切にし、スキルアップや社会貢献につながるなら、気軽に転職する若い世代が増えた。上司の視線を気にせず帰ってしまう社員も増えた。
何よりも嬉しいのは「平気で徹夜する」など泥臭さを売り物にしてきた会社や業界は不人気であること。そして、左記の事例の様な長時間労働を改善するための工夫や取組みをする企業が増えてきたこと。 我々一人一人が組織よりも自分と家族を大切したい気持ちを隠さずに公明正大に主張した時、[3]で述べた現象は自然に消え去る。法律とモラルを守っていれば誰よりも個を優先することこそ公のためになる。そんな公の中にこそ個の幸せは保証される。
〈長時間労働の改善事例〉
3年前までは某社の残業は実に多かった。労働基準監督署のチェックも厳しいが、泥臭い会社は新卒の学生に不人気のため、社長は本気に残業を減らしたいと思っている。しかし、なかなか実行できない。原因は社員の古い慣習だ。「お客さんの要望と追い込みがあるのだから残業は仕方がない」、「残業はどこの会社でもするものだ」、などの暗黙の了解である。
たとえば営業部門。この部門はみなし労働を取り入れたため、これをいいことに長時間労働が一向に改善されない。なぜ改善されないのかと聞くと管理職たちは「お客さんの都合だ」と口を揃える。要はプロジェクトの進捗都合でお客さんが打ち合わせしたいといったら夜でも行くしかない。締め切りに近付くと追い込みするための残業もしなければ間に合わない。これは全部お客さんの都合というのである。
しかし、実態としてはお客さんが夜に打ち合わせしたいのではなく、プロジェクトの詳細な進捗計画がないため、行き当たりばったりの打ち合わせになってしまう。双方の出席者のスケジュール調整ができないため、やむを得なく夜になってしまう。「追い込み」の中身を調べていくと分かったが、どんな余裕のあるプロジェクトでも必ず追い込み時期がある。詳細なプロセス設計を行えば、自然に終わるプロジェクトでも前半はたらたらするため、後半はいつも慌ててしまう。
これの対策としては、プロジェクトの詳細なプロセス(工程)を設計し、受注の前から顧客に提示し、必要なミーティングや人員の配置を全部事前に了解を取る。その設計には当然夜の打ち合わせはない。その通り実行することは顧客にとっても大変助かるはずだ。プロセスの設計と実行検証を繰り返しているうちに設計の精度がどんどん上がってやがて「追い込み」のような想定外労働は殆どなくなった。

