『今年の労働組合の大会から』 〜新たな共闘軸・要求軸の模索〜
労働政策研究・研修機構 主任調査員 荻野 登
(月刊ビジネス・レーバー・トレンド編集長)
今年の主要労組における定期大会もほぼ終了しました。 本号では、労働政策研究・研修機構 荻野 登 主任調査員から各労組の定期大会において議論されたテーマから、今後の労働組合の動きについて解説していただきます。
7月末の米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)の分裂は、わが国労働界にも衝撃を与えた。米国唯一のナショナルセンターがほぼ二分された原因について、マスコミは政治との関係を第一にあげていたが、正社員中心の運動基盤が崩れていることがより大きな背景としてあり、米国での分裂劇が対岸の火事でないことを心ある幹部は感じている。では、こうした構造変化に労組はどう取り組もうとしているのか。今夏の大会で議論されたトピックから運動の今後を展望する。
1 新たな共闘軸の模索ー官民最大産別の組織拡大にも注目
(1)金属労協は職種別賃金を新たな共闘軸に
横並び賃上げによる「春闘」が行き詰まるなか、各産別は新たな共闘軸と要求軸を模索している。まず、共闘面からトピックスを拾えば、「職種別賃金水準の形成」を新たな共闘軸に位置づけた金属労協(IMF・JC、200万人)だろう。これまでの春闘でJC共闘の軸だった「賃上げによる相場形成」から完全脱皮、「大くくりの職種別賃金水準の形成」を新たな共闘軸にすべきだとする「総合プロジェクト会議」の中間報告を採択した。昨年の大会以降、運動のあり方を議論してきた同会議は、賃金交渉における「パターンセッター」「相場形成」という従来の共闘効果が限界にきていることから、新たなJC共闘のあり方を議論してきた。
大会で確認した06年度の活動方針では、「『基幹労働者』の銘柄づくりに向けた論議を深める」としており、06年闘争では、職種別賃金の前提となる「産業ごとの代表職種における中堅労働者(基幹労働者)」という銘柄固めを進める考えだ。金属労協の運動方向として、職種別賃金という新たな共闘軸が打ち出されたことになるが、金属労協はその実現目標を「2010 年をめど」としている。
(2)UIゼンセン同盟、自治労ともに産別統合で組織強化へ
官民のナンバーワン産別である自治労とUIゼンセン同盟は、組織拡大による共闘体制の強化を追求している。UIゼンセン同盟(80万人)は、百貨店やチェーンストアなどの組合でつくるサービス・流通連合(18万人)との組織統合について、07年までに新組織のあり方など具体的な内容を詰める方針を固めた。両者の統合が実現すれば現在、自治労(95万人)と勢力が拮抗することになる。今後のスケジュールは、両組織による「再編統合推進委員会」(仮)を設置し、新組織の名称・綱領・理念・規約・政策・運動論・組織体制・会費などについて07年6月をメドにまとめ、引き続き、統合の最終案を詰める「結成準備委員会」(仮)を設け、結成時期や役員体制などを確認する予定だ。新組織の結成時期はいまのところ明記していない。
自治労の大会では、来年1月1日に全国一般(3万5000人)と組織統合することを最終決定した。統合後は、自治労の内部組織として「全国一般評議会」が設置される。一方、自治体の交通や水道といった公営事業を組織する都市交(3万3000人)、全水道(3万人)との間で別途進めている統合協議については、来年1月に臨時大会を開催して、統合の基本方向を確定し、連合体発足に向けた準備会を3月に設置するスケジュールを確認した。
2 多様化する要求軸
(1)電機はワーク・ライフ・バランスを柱に
電機連合(65万人)は来春以降の総合労働条件改善闘争(春闘)の柱を、@賃金、一時金などの「生活改善」A60歳以降の雇用延長やキャリア開発支援などの「雇用」B多様な働き方への対応などの「ワーク・ライフ・バランス」3点に絞り込むことを決定した。とくにワーク・ライフ・バランスについては、5カ年のプログラムを策定し、必要に応じて毎年の闘争で経営側に要求する構えだ。また、派遣・請負労働者に対する「均衡ある処遇」を追求するとともに、短時間正社員制度の導入を視野に入れた取り組みも開始する。
自動車総連(68万人)は、パートや契約社員などの非典型労働者を対象に組織拡大を進めることを決めた。非典型労働者の就労形態や人数などを把握したうえで、各労連・単組ごとに組織化方針やアクションプランを策定する。これにあわせ、大会では、非典型労働者の会費を月額200円(一般組合員は310円)とすることも承認した。自動車総連の速報対象労組(製造16社、部品65社)では、昨年末時点でパートや契約社員などの臨時社員は4万1369人にのぼり、2年前に比べ約7割も増えている。
(2)高まる積極賃上げ要求への要望−造船・非鉄も複数年協約のサイクルへ
来春の賃上げ要求に関して動向が注目されるのは、電機連合と基幹労連だ。電機連合の大会では、「来年もベア要求を見送れば、6年連続のベアなしとなりかねず、こうした由々しき事態はなんとしても避けなければならない。ベア要求の機は熟しつつある。前向きにベア要求の考え方を出してほしい」(日立労組)などの本部への注文が相次いだ。
一方、2年毎の隔年春闘に移行している基幹労連では、来季が賃上げ要求の年に当たるため、ベア要求の扱いが大きな焦点となる。宮園哲郎委員長は大会挨拶で、「『魅力ある労働条件づくり』と『産業・企業の競争力強化』の好循環を創り上げる観点から月例賃金を改善していこうとしている」と述べ、具体的な要求設定に強い意欲を見せた。一方、鉄鋼部門が先行していた賃上げを含む2年単位の複数年協定サイクルについて、造船重機と非鉄部門も06年以降、そろえる方向を承認した点も注目される。
3 ナショナルセンター連合の役割は?
役員選で迷走した連合だが、高木剛会長(UIゼンセン同盟)ー古賀伸明事務局長(電機連合)の新体制で新たなスタートを切る模様だ。笹森清・前会長が敷いた企業別組合主義からの脱却という改革路線を、連合は地方連合会活動の改革で具体化しようとしている。その第一弾として打ち出しているのが地方連合会の下部組織で、全国に470ある地域協議会(地協)の強化だ。100のモデル地協を選定(専従者を配置)し、未組織や中小地場労組の支援に当たらせる。春闘でも2年前から展開している中小共闘に軸足を移すとしており、格差是正をキーワードに連合は、「中小春闘」に取り組みを特化させる考えだ。
こうした運動の方向性について組織内は、必ずしも一枚岩ではなく、憲法問題など国の基本政策をめぐって顕在化しつつある加盟組織間の軋轢が高まっている。こうした諸課題を高木ー古賀体制がどう乗り切っていくかも注目点だ。

