「第107回 日本経団連 人事・労務管理者大会 愛知大会」
7月7、8の両日、名古屋観光ホテルにおいて「第107回 日本経団連人事・労務管理者大会愛知大会」(主催日本経団連、中部経営者協会、愛知県経営者協会)を開催した。「組織活力を生む、企業変革へのシナリオ〜『攻めのリストラ』へ向けて人事が果たす役割〜」を総合テーマに行った同大会には、全国から約500名の経営者、人事・労務担当者らが参加し、自社における「人材力」を最大限活かし、活力ある組織作りを行うための人事戦略などについて探った。本稿では大会の概要について紹介します。
本大会は、岡部弘・本会会長の「企業変革を成功させ、更なる企業成長を実現させるには、自社の『人材力』を最大限に発揮し、活力あふれる組織作りを実現していくための人事戦略が重要になってくる」との冒頭挨拶ののち、第1日目の最初のプログラムである基調講演において、張富士夫・日本経団連副会長(トヨタ自動車兜實長)は「志を持って新たな未来を切り拓く」をテーマに次のように述べた。
「志」について
故豊田喜一郎氏の呼びかけに応えて、高い志を胸に抱いた多くの人々が集まり、1937年にトヨタ自動車が創業された歴史を紹介。創業当時の諸先輩は「日本の産業の発展」という明確な目的を持って、情熱を込めて車作りに邁進してきたが、その志と情熱は現在の社員に引き継がれているとし、同社は「ただ儲けること」ではなく、より良い自動車を安く作ることによって、「豊かでより便利な生活の実現」や、日本のみならず「世界中の国々の発展」を目指す考えであると述べた。 さらに、企業の役割としては、まず真面目にビジネスを行い利益を上げること、次に環境問題、安全問題、地域社会の発展などに対して社会的責任を果たし、その上で、世界中の国々の文化、教育、医療などの面でも社会貢献していくことが重要であると指摘した。
「新たな未来を切り拓く」ということ
世界の自動車普及率を考えれば、自動車産業は現在も成長産業であると強調する一方、今までとは異なる視点を持って自動車の普及を考える必要があると言及。ここ20年来の克服すべき課題として、環境技術や安全技術を進化させ、資源・環境問題や交通事故の問題の解決(ゼロナイズ)を図りながら、自動車の楽しさ・快適さを最大化(マキシマイズ)していくことを挙げた。
また、自動車産業が新たな未来を切り拓くためには、グローバリゼーションの進展に伴い現地生産の比率が高まる中、現地の人々といかにうまく協力していけるか、加えて、各国のお客様の声をいかに製品に反映させ、国際競争力を高めていけるか、がポイントになるとの考えを示した。
「人材育成」について
トヨタ自動車の社長として考えてきた「人材育成とは何か」について、自身の体験談を交えながら語った。その中で、まず、教育(知らないことを教えること)と訓練(知っていることを繰り返し実行し、体に染み込ませること)の必要性を示し、特に、訓練の場において、仕事の結果に対して「それはなぜか?」という疑問を繰り返し投げかけ、その原因を追求し、それを次の仕事に活かしていく姿勢を身に付けることが大切であると指摘した。
さらに、若手の育成にはチャンスを与えることが重要であるとし、職場でのローテーションも有効だが、これまでとはまったく環境が異なる海外でのプロジェクト参加など「武者修行」が本人を大きく成長させるとの考えを示した。
最後に、社員に対して、自社の「道場」において基本を教えた後に、どこでどのような「武者修行」をさせるかをよく考えて欲しい、という人事労務管理者へのメッセージで締め括った。
次に「組織の強さと人材マネジメント」と題した講演では、一橋大学大学院の守島基博教授が、人材マネジメントのミッションは組織を強くすることにあると指摘。人事の役割はどういった組織能力、組織の強みを企業の中に取り込んでいくのかが重要で、「社員のやる気と企業に対するコミットメントをもう一度大切にすべきだ」と強調した。人事が関っていく組織レベルの力(ソフトな力)として、?人材を蓄積する力、?文化・価値観を共有する力、?変化を準備する力、?組織学習をする力、?職場の元気、?協働・協力する力、?リーダーを継続的に生産する力、の7点を挙げ、なかでも特に?のリーダー人材の再生産が最も重要であるとの認識を示した。今後、企業が自律・分散・協調型組織に移行していく中で、人材マネジメント部門はその組織を強くするために、「自らがビジョンを描けて、現場の人間を育成し活用ができる優秀な現場リーダー」を継続的に供給することが重要である、と述べた。
また、「人事の短期的な目標(コストダウンや戦略を達成する)」と「長期的に企業の強みを維持していくための目標」をバランスよく維持していくことが組織を強くしていくことにつながる、とも指摘され、キャノンの「実力終身雇用制度」の事例を挙げその重要性を示した。
このためには、人事自身が「人事としての戦略」を持たねばならず、人材マネジメントとしてのビジョンを示すことが大切で、これが最終的に人事部としての付加価値になってくると述べた。
続いて、「企業変革のために人事が果たす役割」をテーマとしたパネル討論には、川口公高・潟xネッセコーポレーション人財部長、加藤雅裕・潟fンソー調達部副部長、伊藤保徳・河村電器産業兜寰ミ長、がパネリストとして参加した。コーディネーターを務めた関島康雄・鞄立総合経営研究所社長から「ビジネスモデルが変われば企業の戦略も変わる。それにともない戦略を支援する潟qューマン・リソース・マネジメント鰍熾マえていくべきで、ビジネスモデルに適合した企業文化を育てる、人材のポートフォリオを組む、キャリア自立を促す、などの対応が必要である」との問題提起ののち、パネラーから各社の考え方などについてのプレゼンテーションを行った。
川口公高氏潟xネッセコーポレーション 人財部長
- 企業変革のために人事が果たす役割は 2つある。まず1点目は、“変革に 対してコミット”していくことで、人事としては変革を推進していくための、人事施策、ツールを上手く戦略に合わせて作り込み、運用していくことが大事。2点目は、“変革のための土壌づくり”である。企業が永続的に発展していくためには、変革を自立的に生み出し、また、変革が起こったときに素直に受けとめ変革を促すような人・組織・風土づくりを人事は意識しなくてはならず、戦略的に意図的にコントロールしていくことが重要である。
- “変革のための土壌づくり”には3つの観点がある。@組織の多様性、A組織の健全性、B変えるべきもの、守るべきもの見極めがあり、変革の成否には、スピードと現場レベルでの変革が進むこと、が左右する。
- @については、企業が組織を構成していくためには、いろいろな観点から必要なタイプの人材が必要で人材ポートフォリオの戦略的な構築が重要になってくる。
Aについては、人事諸制度、諸施策のフェアな運用を通じて、社員の納得感が得られているかのチェックをすべきである。また、人事と社員との適正な距離感を保つことも大事である。
加藤雅裕氏潟fンソー 調達部副部長
- 企業変革を起こすには人事部門がこれまで作ってきた制度を「安心感と緊張感のバランス」という視点で見直すことが重要である。変革というフェーズでは、個々人に今まで以上に高いパフォーマンスを発揮してもらうことが大事となり、より高い「緊張感」を持って業務にコミットすることが必要となってくる。しかし、「安定感」がなければ、モチベートされず組織がもたない。このため、高い次元での「緊張感」と「安心感」のバランスを取っていくことが重要である。
- 企業変革を実行する2つ目のポイントとして、「個々人の役割認知」である。“戦略シナリオ”と“個々人の役割認識”をいかに近づけるかが大事で、戦略シナリオがしっかりと見える仕組みが重要。弊社でも検討中であるが、バランススコアカードにおける“戦略マップ”の活用もそのひとつと考えている。これは、時間軸を加えて戦略の幹を描き、徹底して見える化を図ることとし、その上で戦略マップを組織として共有し、役割認知を促すというものである。
伊藤保徳氏河村電器産業 副社長
- 企業変革とは、企業経営において環境適応をどれだけのスピードを持って、組織として対応していくかである。日常的な環境適応に対して人事機能がどのような仕掛けを持って牽引していくかが重要である。
- “人”を基本的な資本として企業経営を行うときに、人事機能を企業変革の推進として位置付けるのは極めて素直な考えである。戦略と連動する人財システムの策定と積極的な人材育成が重要である。
その後、「組織効率を上げ、人材の多様性をコントロールしていくためにはどうしていくのか」についての意見交換がなされ、「スキル・知識は事業戦略に合わせる必要があるため、ある程度は同質の人材を揃えていく必要があるが、その一方で、価値観や考え方については多様な人材が必要である」との意見が出された。しかし、「多様な価値観・考え方を持った人材を集めたときに最も注意しなければならないことは“求心力”である」との指摘もなされた。求心力のバランスを欠いたまま多様性を進めると組織は崩壊してしまうからである。
最後に関島コーディネーターから「変革期には現在必要な人材と将来必要になる人材は違ってくることを認識すべき。長期的なコアコンピタンス実現には将来に向けての『人材ポートフォリオ』を組むことが重要」との総括があった。
その後、愛・地球博で愛知県パビリオン総合プロデューサーを務める、ノンフィクション作家の山根一眞氏が「愛知万博と環業革命」と題した講演を行い、第1日目を締めくくった。
第2日目のプログラムは、西山昭彦・東京ガス叶シ山経営研究所長(東京女学館大学教授)が「企業内プロフェッショナルの時代」と題して、最新理論とその企業での実践に基づいた講演で始まった。
まず、企業が高業績を挙げるためには、「優れたビジネスモデル」と「それを支えられる競争人材・組織」が必要であると論じ、「競争組織」とは企業家精神があり、強力なビジネスネットワークがあることなど、身近な企業の例を挙げながら、それぞれについての要件を明らかにした。 次に、今後、企業では「3つの職種だけが生き残る」と述べ、それは「新しい価値を生み出す仕事」や「顧客開発」といった企業に直接利益をもたらす2つの職種に加えて、間接部門においては「仕事のプロ」であるとの見解を示した。「5年後のビジョンが明確に語れる」、「専門性が社内でベスト3に入る」などの条件を満たす「仕事のプロ」への成長のためには、企業内の研修や自宅での勉強以上に、仕事を通じて能力を伸ばすことが重要であるとした上で、マネージャークラスへの調査結果を紹介し、入社時の配属、人事異動、プロジェクト参加の重要性を指摘した。
さらに、ゼネラリストが供給過剰であるという現状認識から「企業内プロフェッショナル」の必要性を改めて強調。その具体例として、合宿での議論や消費者へのインタビューの徹底を通じて成長する一流マーケターや、「第一印象に命をかける」とするトップ営業マンの行動原理など、ヒアリング調査の分析結果を解説した。
また、ある高級寿司職人の仕事に対する姿勢を例に挙げ、受講者の人事労務のプロとしての今後のあり方についても言及した。
本大会最後のプログラムは、「部下のやる気を2倍にする法」と題して、和田秀樹・ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表(精神科医)が、心理学や精神分析学に基づくマネジメントで人材をどう育てるべきかについて講演を行った。
はじめに、日本の若者に関する近年の変化として、学力の著しい低下とともに「人格障害型人間」が増加していることを挙げ、近い将来の労働力の質低下に対する強い懸念を示した。
続いて、近年、「シゾフレ(統合失調症的な傾向がある)人間」が増加しているとする理論を展開し、そのマネジメントには、上司のリーダーシップ、集団心理への理解、共感(心の観察手段)などがポイントとなると指摘。「シゾフレ人間」である部下の心理的ニーズを満たす必要があることを強調した。
次に、部下のやる気を2倍にする動機のマネジメントについて解説。その中で、やる気のない部下には外発的動機づけ(アメとムチによって動機づけること)が必要であるとする一方、やる気のある部下には内発的動機づけ(心の満足を満たし動機づけること)が必要であるとし、必ずしも金銭的報酬は有効ではないと指摘した。さらに、具体的な動機づけの手法として「明確なフィードバックを繰り返す」、「達成可能な到達目標を設定する」、「意思決定に参加させる」などを紹介。人それぞれ有効なものが異なることを留意点として挙げた。また、上手な勉強のやり方や仕事のやり方を教え、部下に成功体験や自信を持たせることも重要であるとの考えを示した。
最後に、心理学の理論は、まずは試すことが必要であると述べた上で、受講者に対して、その試行的な実践を求めた。
なお、大会終了後は、オプショナルツアーとして、「愛・地球博」の見学会を実施し、全国から約50名が参加した。

