「2005年 春季労使交渉・協議の焦点」
〜労働側、『格差是正』を全面に〜
労働政策研究・研修機構 調査部長 江上寿美雄
今年も春季労使交渉・協議の時期を迎えようとしております。
今号では、主要産別の動向をふまえ、今次交渉の論点につきまして、労働政策研究・研修機構 江上寿美雄氏に解説していただきます。
1956年に正式スタートした春闘方式は日本独特の賃金決定方式といえる。2005春闘は50回目に当たる。
容器こそ同じ装いをしているが、その中身はかつてと様変わりし、労働側のナショナルセンターである連合は今年も統一ベア要求を見送った。その代わりに「格差是正」を前面に押し出している。全体の「底上げ」を戦略の主眼とし、春闘の持つ社会的波及力を発揮しようとの狙いだ。
自動車、鉄鋼などを中心に企業業績は総じて好調だが、大企業労組は今年もベア要求断念が大勢を占め、好業績を一時金に反映させるよう求めている。大手の賃上げ水準が中小に波及するというかつてのシステムはもはや機能しない。その中での「格差是正」が焦点となる春闘といえそうだ。
格差是正として「500円」
小泉内閣の下で、格差拡大が急速に進行し日本社会は「二極化社会」へと変質しつつある、と連合は強調している。05春闘のメインスローガンは「格差拡大の小泉構造改革と対決し、公正で安心な職場とくらしの実現」。ベアの統一要求は4年連続で見送った。昨春闘で、連合は中小地場企業の賃上げについて「5200円」の要求目安を掲げた。02春闘以来、大手企業ではベアなしが大勢。とはいえ、大手企業では賃金制度が確立しており、定昇見合い分の昇給はある。そうした制度が確立していない中小では、大手のベアゼロの波をかぶって、「賃上げなし」の事態が続出した。悲鳴を上げた中小労組の声を反映して、初めて中小地場向けの要求目安をつくった。「5200円」は賃金カーブ維持分との位置づけだ。 今年はこれに加えて、大手との格差是正分として「500円」を目安として示した。産別間の「中小共闘」を組織して実効を図る方針だ。
連合はこのように中小地場に焦点を当てつつも、3年連続で好調な企業業績を背景に、構成組織に「可能な限り積極的に純ベアを要求」と求めた。しかし、ベア要求を決めた産別はごく僅かにとどまっている。私鉄総連(定昇見合い分2.1%+1500円)、UIゼンセン同盟(賃金体系維持+賃金引き上げ原資1000円基準)ぐらいだ(昨年にベア要求したJR総連、JR連合は、中越地震の影響を考慮していま検討中)。
自動車総連は、「賃金カーブ維持分確保を大前提とし、各組合は格差是正・体系是正に向けて積極的にベア分を設定する」との方針を決めた。しかし、トップメーカーのトヨタ自動車労組は3年連続でベア要求見送り。日産自動車はこの数年、労組がベア要求し満額獲得しており、昨年は、自動車の中で、唯一、1000円のベアが実現した。今年、労組は賃金体系変更の原資として要求する。
大手労組、ベア要求を見送り
業績好調にもかかわらず、大手労組がベア要求を断念するのには、いくつかの理由がある。景気回復の要因としてあげられるのは、米国、中国に対する輸出が好調なことに加え、リストラなどによる企業体質の改善が何といっても大きい。日経NEES 1608社の集計によると、売上額の伸びと利益額の伸びの乖離が目立つ。03年3月期の売上額が1.2%という緩やかな増加に反して、利益額は72.1%と大幅な増加だった。続く04年3月期は1.9%に対し26.9%(日本経済新聞04年9月12日朝刊)。その理由はコスト削減以外に考えられない。人件費の削減、間接部門の合理化、部品納入費の削減などによるものだろう。
完全失業率は04年3月に5%を切り、直近の11月の数字は4.5%で、5年10カ月前の水準に戻っている。労働経済動向調査などによると、従業員について「不足気味」−「過剰気味」とする企業が増えており、その幅は拡大している。リストラは峠を越えたといってよい。
だが、労組も各企業の業績回復が固定費削減の結果であることを理解しており、さらに国際競争力の視点からも賃上げには抑制的な姿勢をとっている。デフレが続いていることも要因だろう。
合理化の結果、職場環境が厳しくなっていることは事実だ。だから、その見返りを求めるのは当然だとしても、賃金ではもう無理だとし、一時金の上積みをねらっている。
さらに、大手の賃金水準は現状に留めることを前提に、多くの産別は連合方針を踏まえて、「格差是正」に姿勢を傾斜させている。自動車総連はメーカー労組のほかに部品、販売などの多くの労組を抱えている。昨年は全体の4割がベア要求し、1割に当たる122組合がベアを獲得した。今年はこの数を増やしていきたいとの熱意を示している。
パート、雇用延長なども要求
明らかに春闘景色は変わってきた。大手が賃上げの相場をつくり、中小がその相場を参考にするという形はもはや通用しない。大手追随ではなく、中小独自で賃上げを図っていき、その場合、大手との賃金水準の格差を指標にする。こんな陣形づくりを労働側は意識するようになってきた。大手のベアゼロが続くなかで、苦肉の策といえないことはないが、「底支え」「底上げ」という用語がこの数年、労組では連発される。今年はこれを「格差是正」とはっきりと打ち出したのが特徴だ。
その一環として、連合は今年もパート労働者の時間給10円以上の引き上げを掲げている。01春闘から連続しての要求だ。関連して、全従業員対象の企業内最低賃金の協定化も打ち出しており、労働者全体の「底上げ」を図る考えだ。昨年暮れに発表された労働組合基礎調査によると、04年の労働組合組織率は前年比0.4ポイント減の19.2%。このうちパート労働者の組織率は3.3%に過ぎない。組合員数はピークの94年から10年間で238万9000人減っている。各職場で非正規労働者が増えているにもかかわらず、組織化が徹底的に遅れているためだ。連合もパート賃上げを要求には掲げても、実際に取り組む加盟組合は少ない。そろそろお題目では済まされない時期だろう。
そのほか、@不払い残業の撲滅のための労働時間管理の協定化A改正高齢者安定法に対応した60歳以降の雇用延長の確立B配偶者出産時の休暇制度確立など仕事と家庭の両立支援策の充実−などが各産別の要求の主な柱だ。
大切な職場での労使協議
賃上げが中心だったとはいえ、春闘では多くの労組が職場で議論し、職場が抱えるいろいろな問題をとりあげてきた。これは貴重な財産だ。いま、働き方の多様化に対応して、労働法制も一律に「実態規制」する方法から「手続き規制」の対応へと変わりつつある。法律は手続きを決める。あとは労使自治でという方向だ。たとえば企画業務型裁量労働制での労使委員会の設置、パートの均衡処遇、改正高年齢者雇用安定法での対象従業員の労使協定などがそれに当たる。労使協議の重要性は増している。
日本経団連は「『春闘』から『春討』へ」と2年前から唱え、労働側が反発しているが、言葉の問題はともかく、労使の「討」が重みを加えていることを再認識すべきだろう。「春闘」の場はそうした場としてまだ十分活用できる。

