「経営シンポジウム中部2004」
〜『現場力』向上と技能伝承への取り組み〜
11月10日、メルパルクNAGOYAにおいて「『現場力』向上と技能伝承への取り組み〜甦れ日本企業の現場魂〜」をテーマに経営シンポジウム中部2004を開催した。
今回で20回目となるこのシンポジウムは、愛知、岐阜、三重3県の経営者協会で構成する中部経営者協会がトップセミナーとして毎年開催しているもので、当日は、3県の経営者や人事担当者ら約170名が参加し、各講師の話に熱心に耳を傾けた。
はじめに
現場の第一線での大きなトラブルや事故が相次ぎ、日本企業の強みとされてきた現場の人材力(=現場力)の低下が懸念されている。また、従業員の高齢化が進む中で、経験者の持つ高い技術や技能を現場できちんと伝承していくような仕組みの構築も多くの企業の課題となっている。
今回のシンポジウムは、現場力向上や技能伝承に地道に取り組み、競争力の強化に努めている企業の事例を通じ、今後の方向性やあり方の模索を狙いとして開催した。
開会にあたり柴田会長から「これからの日本が堅持していかなければならないものは、教育をはじめとする人への投資である。NEETと呼ばれる若者の増加や団塊の世代の現役引退時期が近づく中で、これまで日本企業の繁栄を支えてきた現場の技術やノウハウを次の世代に伝えていくことが大変重要である」との挨拶があった。
基調講演
「専門のなかで幅広く-変化と異常をこなす知的熟練の向上」
基調講演では、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の小池和男氏に、生産職場で必要とされる技能やその形成方法などについてご講演いただいた。
小池先生は、自動車組み立てラインを例にあげ、一見くりかえし作業ばかりで技能が不要に見える職場でも、生産量や生産ラインなどの変化と品質の不具合などの問題がひんぱんにおこると指摘。生産職場に働く人材の技能の高低で、同じ機械でも数倍の差がでることから、こうした変化と問題をこなすノウハウ・技量(=知的熟練)の向上が非常に重要であると述べられた。
知的熟練の向上のためには、職場内の多くの持ち場を経験させる、専門の中での幅広いOJTの実践が重要であると強調され、ローテーションにより技量向上の機会を多く与えることが必要であると述べられた。また、自分で選択した研修に対して年間40時間まで会社が費用を補助するモトローラ社の例を紹介し、一定レベル以上の人材については、自己選択によるOffJTを実施することで、より高い効果が期待できると述べられた。
さらに、技量の向上度を公正に評価し、評価に応じた報酬を支払うことの重要性についても指摘された。個々の技量レベルを評価した「仕事表(作業別習熟度表)」を作成し掲示することで、社員の励みになり、評価者の恣意性も制限され有効であると述べるとともに、報酬は経験の幅に応じて払うという中長期の視点が必要であるとの考えを示された。
最後に、職場で必要とされる技能とは、匠といわれるものとは限らず、日常の実務をきちんと行う中で伝承されるものであると述べられた。
パネルディスカッション
「モノづくりの技能伝承と『現場力』向上」
パネルディスカッションでは、大同特殊鋼株式会社(愛知)人事部長の詫間洋二氏、株式会社TYK(岐阜)常務取締役技術本部長の白谷勇介氏、井村屋製菓株式会社(三重)執行役員兼菓子食品 DCユニットマネージャーの前山健氏がパネリストとして登壇。小池先生のコーディネートで、ものづくりや技能伝承に関して各社が最も重視していることや仕事の経験の幅を広げる取り組みなど、様々な視点から技能形成についての意見が交わされた。
詫間氏は、現場力とはチームとして改善を継続する力であるとの考えを示し、現場の自主性を尊重した技能伝承活動を展開していると述べられた。また、約3万点のスキルの棚卸や、取得資格の掲示等による「技能の見える化」、各種工房・コンクールの実施等による「伝承の場」づくりなど、同社での技能伝承活動について紹介された。
白谷氏は、同社では製品の品質を常にフィードバックすることで、造った製品がどのような結果かオペレーターにわかるようにしていると述べられた。また、原料粉砕から混練・成形、焼成、加工までを一人でこなす同社のセル生産方式について紹介するとともに、感謝の気持ち、謙虚さ、誠実さの上に固有技術は磨かれるという経営哲学も示された。
前山氏は、食品会社の特性上、あずきの煮方や生あんの調合など数量化できない伝統の技法があるが、マニュアル人間が増える中で、その伝承が課題であると述べられた。伝統の味を作るために、工程単位で力量表を作成し半年ごとに判断するほか、個人の特性を見極めたうえで、マンツーマン指導によるOJTに力を入れて取り組んでいると述べられた。
特別講演
「世界の潮流と変革期の経営者像」
特別講演では、株式会社東芝会長の西室泰三氏から、自らの経営観やご経験にもとづき、変革期の経営者のあり方についてご講演いただいた。
西室氏はまず、米国大統領選やブッシュ政権の外交および内政面の今後の課題、方向性等について様々な情報を紹介しながら述べられた。大統領再選とともに共和党が上院で多数派となったことから、司法改革や年金改革等、懸案となっている諸課題は実現され、全体として望ましい方向に進むとの見解を示された。
続いて世界経済の潮流の変化について触れ、20世紀後半まで供給者主導の市場形成により世界経済は急速に成長を続け、豊かさを達成した時代であったと述べるとともに、20世紀後半から21世紀にかけては、ICT革命によりグローバル化とデジタル化が進展し、世界規模での競争激化や世界標準化等をもたらしたと指摘された。また、今後の方向性として多様化、創造市場、グローバル市場の3つのキーワードをあげ、ユーザー主導の市場への対応が重要であると述べられた。
変革期における経営者のあり方として、時代は常に変化していると自覚し、変化を創造していく気概が求められる。課題と目標を明確にし、わかりやすい言葉で語りながら、社員に共通の認識を持たせることが重要であると述べられた。また、変革は中途半端だと大抵失敗する。踏み出したら終りがないものと覚悟し臨む必要があるとの考えを示された。さらに経営者のものの見方として、「鳥の眼」「動物の眼」など1つの見方だけでなく様々な見方を意識することが必要だが、最も大切なのは人を尊重し、思いやりの心を持つ「人間としての眼」を持つことであると強調された。
最後に、経営はサイエンスであるとの考え方が一般的であるが、21世紀のマネジメントはアートに回帰するとの考えを示された。経営判断は算盤勘定のみで行うのでなく、芸術家が作品を仕上げるためになす努力と同様、色々な分野での経験と知識を生かし、様々な要素を瞬間的に判断し、創造して総合的に決断することが重要になると述べられた。

