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会報

労働組合の政策ビジョン−賃金・労働政策と組織強化を中心に

労働政策研究・研修機構 主任調査員 荻野 登
(月刊ビジネス・レーバー・トレンド編集長)

 今年の主要労組における定期大会がほぼ終了しました。
 そこで本号では、労働政策研究・研修機構 荻野主任調査員から、今年の各定期大会における主なポイントをあげていただきながら、今後の各労組の政策ビジョンについて解説していただきます。

はじめに

 2割を切った組織率の低下と非正規雇用の拡大に歯止めがかかる気配は薄く、「組合員の減少」で、3年前に比べて財政状況が「苦しくなった」組合は9割に達している(03年厚労省「労働組合実態調査」)。今夏の労働組合の定期大会では、こうした運動基盤の弱体化に対して「政策」と「組織再編」をテコに、社会的影響力の回復をめざす動きがみられた。

金属労協は「大くくりの職種別賃金」を志向−新しい賃金・労働政策

 金属労協(IMF・JC)は9月の定期大会で、2010年を見越した中期的な「第2次賃金・労働政策」を決めた。目標に「生活との調和と自己実現をめざす多様な働き方」の構築をかかげ、@長期安定雇用の実現A仕事を通じた自己実現B仕事・社会・家庭生活の調和――を基本コンセプトに、これまでの春闘主体の共闘軸を大幅に見直す。
 新たな軸に据えるのは「JCミニマム運動」。金属産業全体の賃金水準を下支えする「JCミニマム(35歳=21万円)」の徹底と併せて、「企業内最賃協定の締結」と「法定産業別最賃」の三つのミニマム運動を推進する。これまでの個別賃金要求・決定から一歩踏み出し、金属産業にふさわしい賃金水準を実現させるため、「大くくり職種別賃金水準の形成」も打ち出した。職種別賃金は銘柄の指標づくりから着手。毎年の春闘時における具体的な検討、職種ごとの中堅・基幹労働者の要求水準の設定といったステップを踏んで、2010年をめどに実現させる考えだ。
 職種別賃金要求の取り組みでは、電機連合(65万人)が先行している。システムエンジニア、研究開発といった職種別に賃金ミニマムを設定。そのうえで各組合が職種ごとに水準引き上げを要求する「職種別賃金決定方式」へ、早ければ06春闘から移行させたいとしている。自動車総連(68万人)もこれまでの平均要求方式から脱皮。来春闘から「個別賃金要求方式主体」に重点を移す。「メーカー組合を中心に『中堅技能職』という『おおくくりな職種別賃金』での要求を目指す」(加藤裕次会長)との方向性を打ち出すなど、金属労協と傘下組織は「職種別賃金」による産業横断的な賃金水準の維持・確保といった路線に一歩踏み出したといえる。

均等待遇も「職種別」を軸に−ワークライフバランスも

 併せて、新しい政策ではJCの独自調査で組織内の非正規社員が22・3%に達したことを踏まえ、短時間正社員の導入など均等待遇の実現に向けた検討も進める。ワークライフバランスを重視した取り組みにも力点をおき、超過労働時間に応じた段階的な割増率の設定などを盛り込んでいる。新しく金属労協の議長に就任した古賀伸明・電機連合委員長は、定期大会での挨拶で「仕事・職種をベースにした同一価値労働同一賃金を新たな規範とすべきだと考える。これは決して働く者の分断を意味するのではなく、むしろ、自社と他社・産業の横断性、男性と女性、正社員と非正規社員の間での格差を是正させるベースとなる」と強調するなど、労働時間の差によらない均等待遇を前進させるためにも、その取り組みの核に「職種別」を置くべきだとの考えを示している。
 ワークライフバランスを重視し、超過労働の削減をより実効あるものにするため、従来のJC要求基準である平日40%以上、休日・深夜50%以上とあわせて、「時間に応じた段階的な割増率の導入の検討」を盛り込んだ点が注目される。連合も今秋以降、「社会保障全体の抜本改革」など四つの重点課題の一つに「不払い残業の撲滅」を位置づけた。連合本部に期間限定の「不払い残業・相談ダイアル」を設置。改善勧告に応じないケースには、連合が労働基準監督署への告発も辞さない姿勢を示すなど、対応を強める構えだ。

目立つ「ベア必要」の主張−格差是正もベアで

 民間最大産別・UIゼンセン同盟の高木剛会長は大会あいさつのなかで、来春の賃金要求について「全体的にはオーソドックスに賃上げを要求してよい環境にある。連合内でベアの要素を加味した要求を行うべきだと主張したい」と発言。加藤自動車総連会長も「ベアは毎年必要だとする考え方は来年も変わらない」「昨年以上に積極的に取り組む」と強調するなど、景気回復を踏まえて、来春闘ではベア要求を盛り込むべきだとの主張が強まっている。ただし、これらの主張には二つの意味が込められている。一つは業績の回復は一時金ではなく、月例給与で還元するべきだという原則を大手に再確認してもらう意味合い。もう一つは、中小向けに景気回復の今こそ、ベアで大手・他社との格差是正をという呼びかけだ。
 今年の「連合春闘」で目玉となった「中小・地場組合の共闘強化」。はじめて「5200円」という中小向け統一要求指標を掲げ、集中回答日の翌週に中小のヤマ場も設定した。その結果、昨年の同一組合との比較では賃上げが約200円上積みされたこともあり、連合は「ある程度中小・地場組合の底上げを果たすことができた」(04闘争のまとめ)との評価を下した。しかし、今年の共闘は事実上、産別が指導役だっただけに、中小金属のリード役を果たしたJAMの小出幸夫会長は「中小春闘は産別共闘と地方・地場共闘が車の両輪。05春闘では連合の地方共闘体制を立ち上げることが重要だ」と連合に注文をつけている。

産別再編で組織力の足固め―「挫折」と「始動」

 連合傘下の産別では、組織再編が大きな流れとなっている。しかし、今年は「挫折」と「始動」で明暗が分かれた。「挫折」したのは5年越しで協議を重ねてきた私鉄総連、運輸労連、交通労連、全自交労連の交通四産別。旧ナショナルセンター時代から引きずってきた運動路線の違いや会費問題などで調整がつかず、4月末に組織統合の話し合いが行き詰まり、各産別が今夏の大会で、正式に新組織結成構想の撤回を確認した。
 新たな動きとして注目されるのが、UIゼンセン同盟(80万人)と、百貨店・スーパーなど流通関係を組織するサービス流通連合(JSD・18万人)の組織統合だ。JSDの定期大会では、「産別再編統合に関する基本的考え方と組織のあり方」を確認。UIゼンセン同盟との間で設置している「流通産別再編統合懇話会」での議論経過を踏まえ、来年の大会では再編統合の「意思確認」を行う。一方、UIゼンセン同盟も運動方針のなかに「同一産業内は一つの産業別組織に結集する」「JSDと協議を重ね、産別統合の推進に努力する」と明記。高木会長も大会で「前向きに統合をめざして協議を行う。謙虚に互譲の精神を大切にしながら進めていきたい」と挨拶するなど、機は熟しつつある。
 金属労協も、組織改革論議に着手する。総合プロジェクトチームを中心に、「本部機能を含めた組織のあり方」についても議論し、2年後をめどに将来の組織の姿を提示することを大会で確認した。昨年、鉄鋼・造船・非鉄の産別統合による基幹労連が結成されたこともあり、5年前に一旦は見送られた「大産別化構想」が改めて浮上する可能性もある。
 また、共産党系のナショナルセンターである全労連(99万人)は、「全労連オルグ団」を結成。とりあえず12人で構成し、約2億円の組織拡大推進基金を投じ、「2010年までに140万人組織」の実現を今年の大会で確認した。
 このように、今夏の大会は組織の先細りに歯止めをかけるために、組織再編とオルグ体制の強化といった具体策が示された点で、特徴的だったといえる。