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会報

これからのCSRへの取り組みについて

(社)日本経済団体連合会 社会本部長 中村典夫

 企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility : CSR)については、ISO(国際標準化機構)による規格化が検討されていることなどにより、各方面で急速に関心が高まっております。
 そこで今号では、日本経団連 社会本部長 中村氏から、規格化に向けた動向ならびに欧米での取組状況をご紹介いただきながら、これから日本企業がこの問題に取り組んでいくうえでの課題について、解説していただきます。

1.ISOは本年6月に規格化するか否かを決定

 90年代に入り、欧米を中心として、社会貢献活動にとどまらず、地球環境問題や人権問題への配慮など、幅広い社会的責任を求める動きが広まった。その背景には、@多国籍企業の活動が貧富の格差拡大や環境破壊を生むとのNGОの批判に見られるような、経済活動のグローバル化に伴う負の側面、A環境や人権、労働環境等への配慮を求める消費者行動の変化、B社会的責任投資(Socially Responsible Investing : SRI)の普及に見られる投資家からの評価、C企業を選択する際に当該企業のCSRへの取り組みを重視する従業員の意識変化、D欧州の一部の国にみられるCSRやSRIを側面支援する法律制定の動き、等がある。
 このような中でISOは、2001年4月の理事会においてCSRの国際規格をつくるべきか否かを検討することを決定し、同年5月から調査を開始した。なお、ISOは「CSRは企業に限定されるものではない」との考えに立って、“CSR”ではなく“SR”としている。
 ISOでは現在、アジア・オセアニア、欧州、アフリカ、南北アメリカからの地域代表および産業界やNGО、国連専門機関等の代表で構成される高等諮問委員会において、規格化の妥当性を検討している。諮問委員会には、日本からは、高巌・麗澤大学教授がアジア・オセアニアの代表として参加しているだけで、産業界の代表は参加していない。欧州、南北アメリカは産業界代表が参加しており、彼らからは「世界の三大経済圏である日本の経済界からどうして代表が参加していないのか?」と不思議がられている。諮問委員会は今年の4月末を目途に報告書をまとめる予定であるが、規格化賛成・反対の両論併記になるのではないかと伝えられている。
 ISOはその報告書を受けて、本年6月にスウェーデンで国際ワークショップを開催し、その直後に規格化するかどうかを決定する予定である。なお、わが国では、JISを所管する経済産業省が日本規格協会に学者や企業人、消費者団体代表などからなる「CSR標準委員会」を設置して日本の対応策を検討しており、6月の国際ワークショップにも代表団を送る予定である。

2.欧米の取り組み状況

 日本経団連の関連団体である(社)海外事業活動関連協議会(CBCC)では、昨年12月1日から10日にかけて米欧にミッションを派遣し、CSR基準策定に関わる国際機関や民間団体、さらにはCSRへの取り組みにおいて先駆的な米国企業、欧州企業を訪問し、米国・欧州の政府・産業界関係者のCSRやCSR規格化に対する考え方を聴取するとともに、率直な意見交換を行なった。筆者も参加したが、調査結果のポイントは以下の通りである。

(1)米国

 米国企業における取り組みの特徴は、第一に、コーポレートガバナンス、企業倫理・コンプライアンスをベースに、積極的な経済価値の追求を通じて、社会にポジティブな影響をもたらす活動を展開していることである。活動内容は地域社会への貢献活動が中心であり、「企業市民活動(コーポレート・シチズンシップ)」に焦点を当てている。第二は、各社が独自の企業戦略・ブランド戦略に基づいて優先分野を決め、「戦略的集中」によって個性を出すことを心掛けている。取り組みの結果はCSR報告書によって公表し、ステークホルダーズや市場からの評価を受ける。第三は、グローバルな企業活動を視野に入れ、サプライヤーに自社の企業行動規範の遵守を要請するなど、サプライチェーン・マネジメントを重視していることである。
 規格化については、米国産業界は、企業の自主性や国・地域による多様性の尊重の観点から、一つのCSR規格を外部から押し付けられることには反対との立場をとっている。さらに、マネジメント・システム規格は、企業、消費者双方にとってニーズがないとの指摘もされている。

(2)欧州

 欧州委員会は、ステークホルダーズ社会からの圧力を受け、「市場の管理者」として、拡大EUにおける企業活動の信頼性と公平な競争条件を確保するため、CSRに関するルール作りに着手しているが、CSRに関する新しい法律を作るのではなく、既存の環境や公共調達の法律の中にCSRの要素を組み込みたいとしている。産業界、労働組合、NGО、政府などマルチ・ステークホルダーの対話を重視し、“マルチ・ステークホルダーズ・フォーラム”を立ち上げている。
 欧州産業界は、規格化について、「ISOによる規格化は巨大な認証ビジネスをもたらす」、「各国間の多様性やCSRの優先課題の違いを考えれば、国際的に合意できる内容は最低基準にしかならず、消費者・ステークホルダーに付加価値をもたらさない」、「国際規格がなくても企業の自主で取り組みは進んでいる」等の理由をあげて反対している。
 なお、2月に来日した欧州委員会のカンタン雇用・社会問題総局長も、「法制化は基本的人権など、最低限の基準を保障するものにすぎず、CSRの促進になじまない。」、「CSRの国際的な基準・規格を一律に適用して多用な企業の取り組みが妨げられるべきではなく、各国の独自の文化・風土を活かした取り組みを重視すべきである。」と指摘した。

3.日本企業はいかに取り組むか

 日本経団連では、上記の欧米調査結果を踏まえ、本年2月17日に、「企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方」を発表した。そのポイントは、@日本経団連は新たな意味合いのCSRについても積極的に取り組む、A社会的責任に配慮した経営やその情報発信、コミュニケーション手法等は企業の自主性、主体性が最大限に発揮される分野であり、CSRは民間の自主的取り組みによって進められるべきである、B企業行動憲章および実行の手引きをサプライチェーン・マネジメントや説明責任等、CSRの視点から見直すという3点であり、CSRの規格化や法制化には明確に反対している。
 日本企業のCSRへの取り組みとしては、CSR憲章を作成する企業や企業行動憲章や行動規範をCSRの視点から見直す企業が増加しつつある。また、従来の環境報告書をCSR報告書に切り替える企業も増えつつある。欧米調査の結果から浮き彫りになった日本企業の課題の一つは、対外発信が弱く、CSRの分野で日本企業の「顔が見えない」ということであるが、この点、CSR報告書やインターネットを使った自社の取り組みの発信は望ましい。課題の二つ目は、経営トップのコミットメントと体系的・全社的取り組みであるが、この点こそ、日本企業の真の課題であろう。ブームや横並び意識でなく、経営トップが「CSRは持続的な企業経営や、企業のグローバルな競争力の強化に不可欠」との認識を持ち、リーダーシップを発揮することが重要である。
 その際、CSRの要素をどのように考えるかだが、日本経団連における憲章見直し作業においても侃侃諤諤の議論が行なわれている。近く、結果をお示ししたい。