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会報

多様な人材活用に向けた企業の課題

社)日本経済団体連合会 労働政策本部 企画調査グループ長 田中恒行

 雇用形態の多様化が急速に進展しているなかで、社会的情勢などから、今後さらなる多様な人材の活用が必要となってきます。
 ここでは、企業が多様な人材の活用をさらに進めていくうえでの、これからの企業の課題について日本経団連 労働政策本部 田中恒行 氏から解説していただきます。

多様化の背景

 現在、雇用形態の多様化が急速に進展している。総務省「労働力調査(詳細集計)」によれば、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などのいわゆる非正規労働者数は、2003年7〜9月平均で1,508万人、役員を除く雇用者全体に占める割合は30.2%と、3割を超えている。
こうした雇用形態の多様化の背景には、日本企業や従業員をとりまく大きな環境の変化があげられる。なかでもとくに注目されるのが、少子高齢化の進展と、就労者の就労観の多様化、それから経済のグローバル化である。
まず少子高齢化については、今後若年労働力人口の減少が予想され、企業側にとっては、いかに能力ある優秀な人材を確保していくかが重要になる。そのためには、老若男女にかかわりなく人材を雇用、活用し、その人材の能力を最大限に発揮できる雇用・就労形態の整備が求められている。
次に就労者の就労観、就労ニーズの多様化については、日本が1人当たりGDPで世界トップレベルの豊かな国になった現在、人々の就労目的が生活のための資金を稼ぐという目的だけではなくなっていることがあげられる。自分のライフスタイルに合う仕事を選びたい人、家庭生活などとの両立を優先して働き方を選びたい人、あくまで仕事中心にバリバリ働きたい人など、さまざまである。企業としては、優秀な人材を確保し、能力発揮してもらうためには、このような就労者の多様な就労ニーズを満たすための多様な雇用・就労形態を提供することが必要になってくる。いわゆる長期のフルタイム正社員の雇用・勤務体系しかないと、それに合致する就労者しか雇うことはできず、例え能力のある社員であっても、個人的な事情が生じた場合には辞めざるをえないといったことも考えられる。
最後は、経済のグローバル化である。特に中国やアジア経済が拡大していくなかで、主に製造拠点としての日本と中国・アジア諸国との間の人件費コストの違いが浮き彫りになってきている。世界でトップレベルの賃金水準となっている日本が、アジア諸国との国際競争に生き残っていくためには、人件費の弾力化と要員管理の柔軟化への切り替えが急務である。そのためには、職務に応じた適正な要員の配置や、成果や業績に応じた賃金制度の確立が重要になっている。

能力を発揮させるための人材戦略へ

以上のような環境変化を受けて、雇用の多様化はますます進展していくことが予想されるが、今後わが国企業が、熾烈な国際競争に打ち勝っていくためには、何といっても人材の力が最も重要である。特に、デフレ経済と国際競争社会のなかにおいては、不断のイノベーションを推進し、常に高付加価値の製品やサービスを提供していくことが日本企業の生き残りの道であると言える。こうしたイノベーションの担い手となるのが、まさに多様な能力や意識、価値観をもつ人材である。多様な人材が協働することによって、創造的な発想が生まれ、企業の活性化につながる。
このように、企業にとって多様な人材の活用は、経営上の重要課題の一つであると言えるが、企業が多様な人材をより一層活用していくためには、国際的に高水準な人件費を抑えながら、その一方でいかに個々の人材のやる気を高めて能力を最大限に発揮させていくかということが求められる。つまり、この2つの課題を両立させることが最も重要なポイントであり、就労者の価値観が多様化するなかで、いままでのようにすべての従業員を一律的に管理するような人事管理では、多様な価値観をもった人材の能力を活かすこともできなければ、効果的な人件費の配分にはつながらない。これからは、従業員を管理する人事管理から、多様な人材の能力を発揮させるための人材戦略構築への転換が重要であり、そのためには、主に以下の4点が企業における中心的テーマとして考えられる。

雇用のポートフォリオの高度化

まず第1が、雇用のポートフォリオの高度化である。雇用のポートフォリオとは、自社の経営環境と就労者のニーズを踏まえて、正社員、有期契約社員、パート社員、派遣社員等の多様な雇用形態の労働者を適切に組み合わせて経営を行なうという考え方であるが、今後は雇用形態のみならず、就労場所や労働時間などの就労形態の多様化も進めて、従業員の能力活用と自社の生産性向上の両立を実現する「自社型雇用ポートフォリオ」の高度化が必要である。
具体的には、さまざまな職務の特性に適した雇用形態を適用していくことであり、例えば、これまでのように正社員にどんな仕事でも担当させるのではなく、自社の職務内容や業務量等を洗い出して、仕事と役割に応じて、正社員と有期契約社員、短時間社員、派遣社員等を、従業員の希望を踏まえて、最も効果的に配置していくことが望まれる。

多立型賃金体系への転換

 第2が、多様な人材の活用を可能にする人事賃金制度の見直しである。特に年齢や勤続年数等の属人的要素をもとにした年功的な人事賃金制度については、相対的に中高年層の賃金水準を高めるだけでなく、多様な人材の活用の妨げになりうるため、その見直しが必要である。年齢や勤続年数、性別等に関係なく、能力に応じて人材を活用できるようにすることは、従業員にとっても企業側にとっても重要なことである。年功的な人事制度のままでは、例え能力の高い人材でも、年齢が低い、勤続年数が短いという理由だけで、企業はその人材を登用して能力に見合った仕事を担当してもらうことができず、せっかく保有している能力を活かすことができなくなってしまう。企業が国際競争を勝ち抜くには、持ちうる人材の能力を最大限に活かしていく必要がある。

 特に、いかに人件費を戦略的かつ有効的に配分するかが重要になる。つまり、これまでのように属人的な要素によって一律的に昇給・配分するのではなく、職務や成果、貢献度等に応じて、公正かつメリハリをつけて配分したほうが、かえって従業員への納得性は高く、モラールの向上につながる。これからは「平等から公正へ」「画一から多様化へ」といった方向での賃金制度の改革が必要になる。
 そうした賃金制度見直しの流れのなかで求められてくるのが、「全社一律的な賃金体系」から、成果・貢献度にもとづく「多立型賃金体系」への転換である。そもそも成果の現われ方や貢献度は、仕事と責任の差異に応じて異なっており、これを無視してすべて同一の視点で評価し、同一の賃金体系の中で処遇することは、かえって公正性や納得性に欠ける可能性が高い。例えば加工・組立、車両運転、データ入力などの職務は、決められた手順や方法によって、あらかじめ想定された成果物をアウトプットしていく職務であるが、研究・開発、管理・企画・営業などのいわゆるスタッフ職務は、手順や方法は特に定められておらず、成果も職務遂行者の能力に応じて大きく左右される職務である。したがってこれらの職務を同じ賃金体系で評価・処遇するのは困難であり、前者は職務価値に対応して賃金を定める職務給主体に、後者は発揮能力を評価して処遇する職能給あるいは役割や職責に応じた役割給を主体に、成果給を加えた賃金体系にするなど、職務の特性に応じた複数の賃金体系を設定する方が、より納得性が高く、合理性の高い賃金制度として考えられる

雇用・就労形態の選択肢の拡大

 第3が、従業員の生活に配慮した雇用・就労形態の選択肢の拡大である。従業員の就労ニーズ・生活スタイルは多様化しており、企業としても以前のような夫と専業主婦の世帯モデルを前提にした人事管理については早急に見直す必要がある。特に、少子高齢化が急速に進展するなか、高齢者や女性の活用は不可欠であり、高齢者や女性を含め、誰もが働きやすい職場環境の整備に向けて、従業員のニーズに合わせた雇用・就労形態の選択肢の多様化を進めていく必要がある。
 具体的には、例えば高齢者を活用する場合に問題になるのが、高齢者の人件費と、高齢者の体力・意欲・能力の個人差が拡大することである。特に定年後に雇用延長する際、年齢や勤続年数を要素とした年功型賃金体系を、そのまま延長して高齢者を雇用延長すれば人件費負担がかさみ、また定年後に急激に賃金を落とせば、モラールに影響を与える。一方、高齢者側も体力・意欲・能力の個人差が拡大するため、必ずしもこれまで通りフルタイムでの勤務を希望せず、短時間での勤務を希望する者、管理職ではなく専門分野で働きたい者などさまざまである。したがって企業としては、嘱託社員、契約社員、パート社員などの多様な雇用・勤務形態を用意するとともに、それぞれの高齢者の担当する職務や役割、成果に応じた処遇を行なっていくことが必要になる。
女性の活用については、性別役割意識などの組織風土の変革を行なうとともに、出産・育児・介護などの家庭の事情に配慮した人事制度、例えば休業制度の充実や短時間勤務制の導入などを実施することにより、企業としても仕事と家庭の両立を支援していく姿勢が重要である。そうした姿勢や取り組みが、優秀な人材の確保・定着につながっていくものと言える。

組織管理の見直し

 最後に第4が、仕事の選択肢の拡大と組織管理の見直しである。成熟社会において、企業の競争力強化の鍵を握るのは、創造力と行動力を備えた人材である。こうした人材の能力を最大限に発揮させるには、本人の希望する職務に就かせることでやる気を向上させること、職務や仕事の進め方に権限と裁量を委譲して責任を持って仕事に従事してもらうことが重要である。したがって、ポストや職務を公開して人材を募る社内公募制や、人事異動などの希望を自ら会社に申告する自己申告制度などの導入も考えられる。
 以上のように、今後労働力人口が減少していくなか、企業においては、いかに優秀な人材を確保し、その人材の能力を最大限発揮させるかが最大のテーマとなる。就労者の就労観が多様化していくなかで、企業としては上述のような多様な価値観や能力をもつ人材の存在を前提とした人材戦略の再構築が求められる。国も、今般の労働基準法、労働者派遣法の改正等にみられるように、多様な働き方を推進するための法整備を進めているが、今後とも時代の変化に対応して、一層の規制改革を推進していくことが必要である。

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雇用形態の多様化と人事管理

労働政策研究・研修機構 統括研究員 伊藤 実

 多様な雇用形態の活用が進展し、労基法や派遣法、パート労働法などの改正がなされるなど、画一的な働き方を前提とした法制度も少しずつ転換されようとしています。
 そうしたなかで、今後、企業が多様な人材の活用をさらに考えていくうえで必要となる、人事管理の見直しに向けた取り組みについて、昨今の多様な人材活用に向けた労働関連法規の改定の状況とあわせ、労働政策研究・研修機構 伊藤実 氏から解説していただきます。

1.進行する雇用形態の多様化

 正社員以外のパートタイマー、派遣社員、契約社員、季節工、アルバイター、さらにはフリーターなど様々な雇用形態で働く人達が増え、雇用形態の多様化が進行しているが、その変化を数量的に確認すると、以下のような状況となっている。自営業などで働く人も含めた就業者全体の就業形態別の割合を見ると、2002年平均では就業者6,319万人のうち雇用者は5,337万人(84.4%)、自営等の非雇用者は973万人(15.4%)となっている。雇用者の中身を見ると、役員を含めた正規雇用者は3,886万人(61.5%)、非正規雇用者は1,451万人(23.0%)となっており、非正規雇用者は自営等の非雇用者を500万人近く上回る規模にまで増加してきている。
 雇用者だけについて見ると、正規雇用者は全体の72.8%を占めるのに対して、非正規雇用者は27.2%と約3割を占めるまでになっている。さらに、非正規雇用者の中身を見ると、最も多いパートは718万人で雇用者全体の13.5%を占めている。パートに次いで多いのがアルバイト336万人(同6.3%)、契約社員・嘱託230万人(同4.3%)、派遣労働者43万人(同0.8%)となっている。
 非正規雇用者比率の時系列推移をみると、総務省「労働力調査」によれば、1986年以降上昇傾向を示しており、86年が16.6%であったのに対して、2002年には28.7%にまで上昇してきている。この間の上昇は、主にパート・アルバイト比率の上昇によってもたらされているが、最近時点の2002年に関しては、パート・アルバイト以外の非正規雇用者比率が大幅に上昇している。01年はパート・アルバイト比率が23.0%、パート・アルバイト以外の非正規雇用者比率が4.2%であるのに対して、02年は前者が20.9%、後者が7.8%となっている。
 以上が非正規雇用の数量的な実態である。非正規雇用者は雇用者の約3割を占めるまでに増加してきており、その増加は主に女性を中心としたパート・アルバイト比率の上昇によってもたらされてきているが、最近は男性を中心としたパート・アルバイト以外の契約社員や嘱託といった分野の雇用が急拡大している。また、非正規雇用者比率の高い産業は、卸売・小売業やサービス業といった第3次産業である。

2.規制緩和の進展と規制強化の動向

 雇用形態の多様化が進展した背景には、労働法規関連の規制緩和が進展したことが大きく影響している。その典型例は労働者派遣法である。働いている職場の会社に直接雇用されないで働くといった従来の働き方とは異なる派遣労働は、当初16業務に限定されて解禁されたが、その後その適用範囲が順次拡大され、現在では一部の業務を除いて原則自由化されている。
 こうした規制緩和の流れに沿って、これまで懸案となっていた「物の製造の業務」の派遣が解禁され、製造現場での派遣労働が可能となった。さらに、派遣期間が1年から3年に延長され、派遣労働者を正社員として採用する紹介予定派遣も、その位置付けが明確にされた。こうした労働者派遣法の規制緩和によって派遣労働市場は拡大してきており、当初10万人規模の市場も最近では200万人を超えるまでになってきている。
 有期労働契約の規制緩和が進展していることも、最近の男性を中心とした契約社員や嘱託といった分野の雇用が急拡大している背景となっている。労働基準法が改正され、雇用契約期間に定めのない正社員とは異なる契約社員や嘱託などの有期労働契約は、これまで労働契約期間の上限が原則1年であったが、今回の改正によって原則3年に延長されるとともに、専門職と満60歳以上の高齢者についても、3年から5年に延長された。
 また、有期契約労働者の退職についても、これまで契約期間中は原則として退職することができなかったが、改正法では専門職と満60歳以上の高齢者を除き、1年以上の有期契約労働者は1年を経過した以降は、いつでも退職ができるようになった。
 以上の法律改正は、規制緩和によって労働市場の拡大を促進させる性格のものであるが、急増しているパートタイマーについては、逆に労働市場の適正な発展を促すために、規制を強めている。昨年8月に改正されたパートタイム労働指針においては、パートタイムと正社員の均衡処遇が強調されている。パートタイム労働者の業務内容、配置転換の有無、契約期間、勤続年数、経験、職業能力などを総合的に勘案し、正社員と実質的に異ならないパートタイム労働者に対しては、正社員と同一の処遇決定方式と均衡処遇を図るように努めることを求めている。
 さらに、公的年金改革の一環で急浮上したのが、週労働時間20時間以上のパートタイム労働者に対する厚生年金の適用問題である。将来の年金財政が懸念されるなか、保険料を徴収しやすいパートタイム労働者からも広く保険料を徴収する目的から急浮上したこの問題も、外食産業などパートタイム労働者を大量に雇用している業界の猛烈な反対運動によって、とりあえず今回の改正案には盛り込まないことになった。だが、撤回されたわけではなく、いずれ持ち出される問題である。

また、高年齢者雇用安定法も公的年金の改革と連動して、改正が予定されている。企業にとって最も負担となる法定定年年齢を定めた第8条の改正は見送られ、現行の60歳定年が踏襲されたが、第9条は努力義務が義務化(罰則なし。助言、指導、勧告等の行政指導)された。すなわち、従来努力義務であった定年の引き上げ、継続雇用制度等65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置(制度)の導入が、義務化されたのである。具体的には、(1)定年の定めの廃止、(2)定年年齢の65歳までの引き上げ、(3)65歳までの継続雇用制度の導入、以上のいずれかの制度を導入しなければならない。
 ただし、現状を考慮して制度の導入を求めるものであり、個々の労働者についての雇用義務を求めるものではない。企業の実状に応じて、意欲と能力のあるものの雇用機会の確保で足りるように、上記(3)の継続雇用制度の導入については、労使協定により制度の対象となる労働者の基準を定めたときは、希望者全員を対象としないものも認めるとしている。
 さらに、労使協定の締結に努力したにもかかわらず協議が不調に終わった場合、事業主が制度の対象となる労働者の基準を作成し、就業規則(10人未満企業の場合はこれに準ずる定め)に定めた時は、当該基準に基づく制度の導入を認めることとする。これは法附則に明記され、施行から制令で定める日までの間の時限措置とされ、当面大企業は3年間、中小企業は5年間としている。これによって、雇用延長に関しては外堀が埋められ、2013年3月までには何らかの形で65歳までの雇用機会を確保しなければならないのである。
 障害者に関しては、改正障害者雇用促進法によって、特例子会社制度の企業グループでの適用、除外率の縮小や雇用率達成指導の強化などによって、雇用促進を図ろうとしている。