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会報

知的財産立国の実現で産業競争力の強化を果たす

社団法人日本経済団体連合会  環境・技術本部 酒井基博

はじめに

わが国の経済を取り巻く環境は依然厳しい状況にあり、将来に対する閉塞感が払拭できない中で、新たな成長モデルを模索していく必要が生じている。創造性を重視し、その成果を知的財産権として的確に保護、活用する環境を整備することが、わが国の将来にとって欠かせなくなっているのである。
政府では、2002年2月の首相施政方針演説において、「研究活動や創造活動の成果を、知的財産として戦略的に保護・活用し、わが国産業の国際競争力を強化することを国家の目標とする」との方針が示されて以降、知的財産戦略大綱の決定、知的財産基本法の成立、知的財産戦略推進本部の設置と、改革へ取り組みが迅速に進められつつある。さらに、本号が発行される頃には、政策の具体的な目標について、その達成時期を明記した知的財産推進計画が決定される見込みとなっており、その後、知的財産立国の実現に向けて、同推進計画が実行に移されていくことになっている。
日本経団連では、この間、特に産業の国際競争力の強化を目指した知的財産立国の実現に向けた提言を行ってきた。以下では、わが国企業の知的財産戦略を踏まえ、これまでに提言してきた日本経団連の考え方を紹介することとしたい。

注)本稿は6月24日現在での情報をもとに執筆している。

T.わが国企業の知的財産戦略について

知的財産をめぐるグローバルな競争はますます激化しており、技術開発力、知的財産戦略の優劣が、企業の収益を左右する重要な要素となってきている。わが国企業が国際競争に打ち勝っていくためには、知的財産戦略を経営戦略の重要な柱の1つとして捉えるとともに、企業自らが戦略的な研究開発を進め、その事業化により収益をあげるべく、ライセンスによる活用を含め、知的財産権を最大限に活用していくことが不可欠である。
知的財産を活用していく上で重要なことは、事業的に価値のある知的財産特許を数多く取得することである。特に、わが国企業は、改良的な発明を多数生み出し、それをもとに特許網を形成することを得意とし、そのことが企業の収益を支え、わが国の競争力の向上に貢献してきたところである。
今後は、こうした改良発明分野でのわが国の強みを維持しつつ、わが国がこれまで弱いとされてきた独創性の高い発明を生み出していくことで、わが国独自の知的財産戦略を構築することを目指すべきである。

U.わが国の知的財産戦略に関する日本経団連の考え方

U.わが国の知的財産戦略に関する日本経団連の考え方
わが国の知的財産制度ならびに政策は、このようなわが国企業の戦略を最大限に支援するものであるべきである。こうした観点から、日本経団連では、以下のような提言を行ってきた。

1.知的財産の創造の推進

 知的財産立国を実現していく上では、国際競争力の強化につながる知的財産を創造することが不可欠である。そのためには何よりも、産学官において研究開発を強力に推進していくことが求められるが、政策の面からも知的財産の創造を促進していくことが重要である。
 (1)職務発明の対価の額の決定は、企業において定められた取り決めに委ねるべき
知的財産の創造にあたっては、発明者に対し、適切なインセンティブを付与することが重要である。職務発明に対する金銭的報償もインセンティブの1つであるが、その対価の額は、わが国の場合、特許法第35条により裁判所が判示する仕組みとなっている。しかし、企業が優秀な人材を集めるべく、研究者に対するインセンティブを高めることは市場の要請であり、また、企業と発明者との関係も多様化する中で、職務発明の対価の額だけを裁判所が最終的に決定することは、国際競争力に重大な影響を及ぼしかねないものである。職務発明の対価の額は、世界的な潮流に合わせ、企業において合理的なプロセスのもとで定められた取り決めに委ねるべきである。
ここで合理的なプロセスとは、例えば、(1)職務発明の扱いが個別の雇用契約において位置付けられている場合、(2)労働協約上位置付けられている場合、(3)就業規則上位置付けられており、かつその内容へのアクセスが事前に可能となっている場合のいずれかが満たされていれば良いと考えるべきである。
なお、特許法第35条については、知的財産戦略本部においても、改革の方向が示されており、産業競争力の強化につながる措置が期待されるところである。
(2)技術戦略、国際標準化戦略と知的財産戦略を一体的に推進すべき
技術が優れており、かつ知的財産権が確保されていたとしても、国際競争力上優位に立つには、もうひとつ、国際標準化という要素が不可欠である。グローバル市場で競争力を強化していくためには、企業も政府も知的財産の創造の段階から、しかも技術戦略や知的財産戦略と同時並行的に、国際標準化に戦略的に取り組む必要がある。
この点は、知的財産戦略本部や総合科学技術会議知的財産戦略専門調査会において大きく取り上げられているところであり、国際標準化の重要性への理解が今後広がっていくことを期待するところである。

2.知的財産の保護の強化

イノベーションを生み出し、それらを経済活性化につなげていくには、創造の成果を知的財産として適切に保護することが必要である。そのためには、権利の取得、水際における知的財産権侵害品の取締りの強化、知的財産訴訟のそれぞれの段階において保護の強化が求められる。
(1)審査官を増員し、審査の充実を図るべき
現在、特許庁では、多大な審査待ち件数を抱えており、タイムリーに特許を取得するためには、審査待ち件数の解消が不可欠となっている。審査の質を維持しつつ審査期間の長期化を防ぎ、また短縮化するため、特許庁では、出願者間のコスト負担を是正することで適正な審査請求行動を促進するなど、総合的な対策を進めているが、審査待ち件数の解消のためには、任期付の採用を含めて審査官を増員すべきである。
(2)特許権侵害品を迅速に判断し、水際で輸入を差止められるようにすべき
海外において知的財産権侵害品の被害が拡大しているが、これらの製品が日本国内に輸入されれば、被害は国内市場にまで拡大してしまう。知的財産権侵害品に対する水際措置については、特許権、意匠権などに関する輸入差止申立制度が導入されたが、これをさらに進め、税関は輸入者や輸出者などの侵害品に関する情報を権利者に開示すべきである。
(3)知的財産高等裁判所を設置すべき
知的財産訴訟については、東京高裁への専属管轄化と5人合議制の導入が図られることとなり、その内容を高く評価するところであるが、これをさらに進め、わが国においても知的財産高等裁判所を設置すべきである。知的財産高等裁判所においては、技術に強い裁判官が活躍し、大法廷の導入などによる裁判例の統一機能を通じて判決の予見可能性が確保されることが期待される。

3.知的財産の活用の促進

創造の成果を経済活性化に結びつけていくためには、適切に保護された知的財産権を事業活動の中で最大限活用していくことが求められており、また、政府としてもそのための環境を整備していく必要があるが、取り組むべき課題も残されている。
(1)ライセンス契約を結んだ相手方の倒産などにより、通常実施権の効力などライセンシーの立場に影響が出ないようにすべき
知的財産のライセンス契約について、わが国においては、契約の相手方が倒産した場合、契約そのものが維持できなくなるおそれが存在している。特に、大企業がベンチャー企業と安心してライセンス契約を結ぶことができるよう、米国と同様、ライセンサーの倒産時や知的財産権の譲渡時においても、包括的クロスライセンス契約を含めて、通常実施権の効力などライセンシーの立場に影響が出ないようにすべきである。
(2)グループ会社全体の知的財産権を一元的に管理できる仕組みを作るべき
連結経営が進む中で、知的財産権の総合的かつ効率的活用を図るため、親会社やグループ内の知的財産管理会社が、そのグループ全体の知的財産権を一元的に管理することが求められている。
そのために、親会社や知的財産管理会社が知的財産権の信託を受け、グループ会社の一定の費用負担のもとで、グループ全体の知的財産権を管理し、権利行使を通じた活用ができるようにすべきである。

4.知的財産関連人材、特に、技術と法律の双方がわかる知的財産関連人材の育成

知的財産の創造、保護、活用を進めていくで、最後に忘れてならないのが、それを支える人材である。知的財産関連の人材は、技術の課題をどのように法律にあてはめるかという点で高い専門性が求められるが、わが国の場合、技術と法律の双方がわかる人材が非常に限られているという状況にある。
このため、技術の素養を有する者が、法科大学院において学べる機会を増やすとともに、司法試験の選択科目に、知的財産法とともに技術系科目を加えることなどを通じて、技術と法律の双方がわかる人材を育成すべきである。

おわりに

わが国経済の成長の源泉として、高度経済成長期と比べ、イノベーションの果たす役割の重要性が増していると言われる。このような知識経済下においては、絶え間なくイノベーションを生み出しつづけ、それを権利として迅速に保護し、さらに有効に活用していくことで、知的創造サイクルを大きく回していかなければならない。また、今日のグローバルな経済社会の変化のスピードはきわめて速く、ダイナミックであり、わが国にはもはや一刻の猶予も残されてはいない。
政府においても、「従来の枠にとらわれない、知的財産に関する特例を作る」「国際競争力のある、世界に通用する制度を作る」「時機を逸することなく、迅速に改革を行う」という3つの視点を掲げて、今まさに知的財産に関する改革を行おうとしている。
日本経団連としても、引き続き、産業界の声を十分に発信するとともに、この改革を支援・推進していくべきと考えている。

(参考)知的財産戦略大綱に基づく
国の知的財産立国に向けた今後の方向性イメージ

イメージ図

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