企業倫理確立に向けて−不祥事防止のために−
(社)日本経済団体連合会 社会本部長 中村典夫
企業不祥事が後を絶たず、社会における企業への信頼が揺らぎつつある中で、昨年10月に日本経団連は「企業行動憲章」を改定しております。この改定憲章のポイントを踏まえながら、各企業が企業倫理確立に向けて取組む際の留意点を中心に、日本経団連社会本部長 中村氏より解説していただきます。
はじめに
経団連企業行動憲章の制定から11年、前回改定から6年が経った。この間の取組みは反社会的勢力との決別と言う面ではある程度成果をあげたと考えているが、昨今、消費者の信頼を裏切る企業不祥事が相次いで発生し、当該企業のみならず、経済界全体が社会の強い批判にさらされている。このような状況を踏まえ、日本経団連では、昨年9月9日に奥田会長が全会員企業代表者に対して企業倫理の徹底を呼びかけるとともに、10月15日の理事会において企業行動憲章改定をはじめとする不祥事防止策を決定し、その遵守を要請した。
本年1月21日に企業倫理トップセミナーを開催したところ、企業の会長・社長75名を含め、企業倫理担当役員など総勢440名の参加を得た。これは企業のトップが企業倫理の重要性を改めて強く認識していることの表れであろう。
以下において、日本経団連の取組みと、企業に求められる取組みを説明したい。
1.防止策策定にあたっての基本的考え方
経団連企業行動憲章は消費者や株主など各ステークホールダーとの関係や経営トップの役割を10カ条の行動原則にまとめたものであるが、制定の契機が総会屋への利益供与事件の続発であったことから、企業への呼びかけは、重点を反社会的勢力との決別に置いてきた。また、法律を守ることは当然として、さらに高い次元の企業倫理の実現を目指すという立場を採ってきた。
ところが、最近の事件の特徴は、企業の現場で法律違反をして、消費者やユーザーの信頼を損ない、企業が市場からの撤退を迫られる、あるいは営々と築き上げてきたコーポレートブランドを一夜にして無にするというものである。しかも、ほとんどが内部告発によって露見している。さらに、企業トップが適切に情報を公開することを怠たり、トップの不適切な対応が火に油を注ぐというケースも見られた。
そこで日本経団連では、(1)企業倫理に関する経営トップのイニシアチブ強化、(2)不祥事防止のための実効ある社内体制等の整備促進、(3)万が一不祥事が起きた場合の対応、の3つの観点から具体的対策を検討した。
2.企業行動憲章改定のポイント
企業行動憲章については修正する必要はないという意見もかなりあったが、不祥事の性格が変化していることを踏まえ、最低限の改定を行うことにした。具体的には、今回の一連の不祥事を巡るキーワードが「コンプライアンス(法令遵守)の徹底」「消費者の信頼」「経営トップの対応」の三つに集約されることから、まず、憲章の目的を明確にするために「社会の信頼と共感を得るために」という副題を付け、前文においてコンプライアンスの徹底を強調した。さらに、第1条に消費者・ユーザーの信頼獲得を目指すことを盛り込んだ他、第9条、第10条において不祥事防止策の確立と発生時の対応及び問題解決について、経営トップが果たすべき役割と責任を明確化し強調した。
なお、実行の手引きも、憲章の改定に合わせて、各社の参考となる具体的アクション・プランをより充実させた。
※憲章と手引きはホームページ参照。
(http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/ cgcb/charter.html)
3.企業に求められる社内体制の整備・運用
企業への具体的な要請としては、企業行動憲章の精神を実践する観点から、特に経営トップが実施すべき社内体制の整備・運用として、以下の7項目をお願いした。これはPLAN(計画)、DO(実施・運用)、CHECK(監査)、ACT(見直し)の法令遵守システム作りのプロセスを基本としている。
(1)行動指針の整備・充実(各社独自の企業行動憲章の策定等)
(2)経営トップの基本姿勢の社内外への表明と具体的な取組みの情報開示(ホームページ、年次報告書、社会報告書への掲載等)
(3)全社的な取組み体制の整備(企業倫理担当役員の任命、企業倫理委員会・担当部署の設置および権限の明示等)
(4)「企業倫理ヘルプライン(相談窓口)」の整備(通常の業務ラインとは別に、重要情報が現場から経営層に伝わるルートを整備、相談者の権利保護等に配慮)
(5)教育・研修の実施・充実(階層別、職種別)
(6)企業倫理の浸透・定着状況のチェックと評価
(7)不祥事が起こった場合の適時適確な情報開示、原因の究明、再発防止策の実施、ならびにトップ自らを含めた関係者への厳正な処分
これらの具体的取組みについては実行の手引きをご覧いただきたいが、例えば、(3)の全社的な取組み体制の整備では、1.代表取締役クラスの役員を企業倫理担当役員に任命する、2.企業倫理委員会を設置し定期的に会議を開催して、活動内容を年に1回以上、取締役会および監査役会(委員会等設置会社は監査委員会)に報告する、3.企業倫理推進担当部署を設置し、企業倫理委員会の事務局を担当する(権限を明確化)、ことが求められる。
(4)の「企業倫理ヘルプライン(相談窓口)」の整備では、1.通常の上司を経由した報告ルートとは別に、重要情報が現場から経営層に伝わるルート「企業倫理ヘルプライン(相談窓口)」を設置し、面談、eメール、ファックス、手紙等の方法で受け付け、相談内容については企業倫理担当役員および経営トップに伝えるとともに、適切な改善措置を講する、2.上記相談者の秘密保持と不利益扱いの禁止を第一義とする、ことが求められる。
(7)の不祥事が起こった場合の対応では、1.社会への説明責任を果たすため、対策立案を待たず、事実関係が明らかになった時点での迅速な情報公開を行なう、2.弁解ではなく率直な事実の説明に努める、3.マスコミ等への発表は極力経営トップ自らが行い、誠実な態度で率直に語り、責任と誠意のある企業姿勢を示す、4.外部(マスコミ)に対してのみでなく、企業のステークホールダーズに対する報告も行なう、5.社内のマスコミ等への対応窓口を一本化して混乱を避ける、等が求められる。
4.企業への支援活動
今回、企業に対して上記のように組織のあり方にまで踏み込んで要請したが、日本経団連としても、各社の不祥事防止策確立のために次のような支援活動を行なう。
(1)定期的なアンケート調査の実施と企業向け自己診断チェックリストの提供
(2)会員企業トップ向け相談窓口の設置
(3)経営トップ向けセミナー、企業倫理担当役員向け研修会等の定期的開催、事例集の提供
(4)「企業倫理月間」の設定(毎年10月)
(5)企業の相談に応じる企業倫理専門部署の設置(昨年11月、社会本部に企業倫理グループを設置)
おわりに
企業倫理への取組みは、決して後向きではない。品質や環境への取組みがそうであるように、企業倫理に積極的であるかどうかが企業の競争力の要因となる時代を迎えているのである。上司や経営陣を慮って何とか現場でうまく処理してしまおうと考えた結果が、企業の存続にも関る不祥事に発展してしまう。それを防ぐには、トップが企業倫理を何よりも重要と考えていることを日頃から機会ある毎に示していただくしかない。継続した取組みによる、風通しのよい企業風土づくりが求められている。

