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会報

2003年労使交渉の見通し

日本労働研究機構 副統括研究員
(労使関係・労働法制担当) 江上 寿美雄

 厳しい雇用環境を背景に、春闘景色は従来と様変わりした。連合はベア統一要求を掲げず、主要産業別組織の多くもベア要求を見送った。焦点は雇用維持と定期昇給の扱いになりそうだ。

連合、4つの重点課題

 イラク情勢も影を落とし、先行きの経済情勢は楽観視できない。2003年度のGDP実質成長率は0〜1%と見る向きが多い。完全失業率も5%半ばで高止まりしており、不良債権の処理によって、さらに悪化する可能性が高い。
 年が明けた1月6日、連合は恒例の新年交歓会を開いた。笹森清会長は「これほど先の明るさが感じられない正月は初めて」と切り出したうえで、「雇用を守ることは労働運動の生命線。今こそ労働組合の存在が問われる」とあいさつした。
 2002春闘で、連合は統一要求基準を「賃金カーブ支持分プラスアルファ」とし、「アルファ」については各産別の判断に委ねた。ベア要求を掲げる産別、ベアを断念した産別とは加盟組織が分かれたために、苦肉の策をとったわけである。
 ナショナルセンターが春闘で賃上げの具体的数字を表記しない初めての年だった。今年も同じ考え方に立っているといってよいが、少し注意が必要だろう。ベア要求できる情勢ではないということが1つ。加えて、ナショナルセンターが賃上げ要求基準を掲げるべきではなく、産別組織に委ねるのがスジだとの意見が、以前から金属労協(IMF・JC)系を中心に強く、その意見が反映されたという側面もある。ということは、今後、景気が上向いたにせよ、春闘では連合が賃上げ統一要求を掲げない可能性が高い。
 連合は「春闘改革」をうたい、今年、4つの重点課題を掲げている。第一は、景気回復と雇用確保の実現。この中には、ワークシェアリングの促進、均等待遇を確保する「パート・有期契約労働法」の制定、各労使による雇用安定宣言・協定の締結と履行確保などが含まれている。
 第二は、賃金カーブの確保と賃金の底上げ。とくに賃金制度が未整備な組合への支援を打ち出し、加えて、中小・地場の賃金水準が低い組合の格差是正に力を入れる。
 第三は、パート労働者の処遇改善と均等待遇の推進。具体的にはすべての組合がパートを含む全従業員対象の企業別最低賃金の協定化を図る。
 第四は、不払い残業の撲滅と総労働時間短縮の推進。いわゆるサービス残業一掃を最大課題に、職場総点運動と労働時間管理の協定化を図る。
 以上のうちの第一を除く3つを「ミニマム運動課題」に設定し、連合傘下のすべての組合が取り組み、交渉結果の「社会的波及」をめざす。

日本経団連、『春闘』から『春討』

 一方、日本経団連の経営労働政策委員会報告は、「企業の競争力維持のためには、名目賃金水準のこれ以上の引き上げは困難であり、ベースアップは論外。さらに、賃金制度の改革による定期昇給の凍結・見直しも労使の話し合いの対象になりうる」と主張している。さらに、連合が「雇用維持・確保」を最優先課題としていることを評価するとともに、「雇用を維持する代わりに、賃金を下げるという選択を迫られる企業も多数生じよう」との見直しを付加している。
 報告は「これからの労使交渉」にも言及し、「労組が賃上げ要求を掲げ、実力行使を背景に社会的横断化を意図して闘う春闘は終焉した」と従来型春闘の「終焉論」を展開し、「これからは闘う『春闘』ではなく、討議し検討する『春討』としての色彩が強まると思われる」と、『春討』という新語を出したのが特徴だ。

トヨタ・ショック再び

 再び、労組側に眼を転じると、JC主要四産別のうち、電機連合、造船重機労働がベア要求を断念、自動車総連が「賃金カーブ維持分プラスアルファ」とし、アルファ分は単組に委ねるという方針(複数年協定の鉄鋼労連は今年ベア交渉なしの年)。NTT労組、電力総連、JAMなどもベア要求なしで、ベア要求するのは私鉄総連、全国一般などわずか。
 こうした中で。労組側にショックを与えたのは、トヨタ自動車労組が1月7日にベア要求を見送る方針を決めたことだ。トヨタ労組は定期昇給相当分の6500円のほか、一時金とは別枠で一人平均6万円を要求する。6万円は基準内賃金には反映されない。
 2年連続で1兆円を越す連結経常利益を計上する見通しのトヨタ自動車の労組がベア要求を断念した意味は大きい。
 2002年春闘で、トヨタ自動車では労組側がベアを1000円要求したのに対し、経営側はベアゼロで答えた。大方の予想を裏切るものだった。日本経団連(当時は日経連)会長を兼ねる奥田碩会長の決断だった。国際競争上、わが国の賃金水準がこれ以上高くなるべきではないという判断を下したわけで、回答直後、トヨタ労組幹部が「日本渇社と交渉しているみたいだった」と漏らしたように、「オールジャパン」の見地に立った回答だったといえよう。
 自動車総連の加藤裕治会長は1月15日の同総連中央委員会で、「トヨタ労組がベア要求しないことは残念でならない」と述べた。1兆円も稼いでいるトヨタ自動車の労組がベアを見送ったことは、かなり儲かっている会社でもベアなし、というふうに影響するだろう。まして、業績が低迷する企業では、定期昇給の凍結・削減が現実味を帯びてくる可能性が強い。
 皮肉なことに、労働側のいう春闘の「社会的波及」が依然として機能しているわけである。
 そのために、2003年交渉の最大焦点は、労働側が定期昇給の実施つまり賃金カーブ維持を確保できるか否かに絞られてきたといえそうだ。