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会報

高付加価値事業を展開する元気ある企業の人事戦略
〜経営シンポジウム中部2002〜

 11月21日、名古屋商工会議所の2階ホールにおいて、「新しい企業経営のパラダイム−高付加価値事業を展開する元気ある企業の人事戦略」をテーマに、経営シンポジウム中部2002を開催した。
 このシンポジウムは毎年、愛知・岐阜・三重3県の経営者協会で構成する中部経営者協会のトップセミナーとして実施しているもので、3県から経営者層や人事担当者ら114名が参加、各講師の経営観や人材観にもとづく話に熱心に耳を傾けた。

 経済・産業のグローバル化が一段と進む中で、国際競争力の強化はあらゆる産業に共通の課題である。今回のシンポジウムでは、総額人件費管理の視点から「高コスト構造の是正」、「付加価値の向上」に役立つ効果的な人事処遇制度のあり方をテーマに取り上げた。
 開会にあたり柴田会長から、「日本経済が低迷する一方で中国の台頭がめざましい。先般、首脳交替が行われたが、明快なビジョンの下、活気に溢れていることが印象的だ。わが国の現状を打開するためには、各企業の知恵や技術を活かした他ではマネのできない経営と、人材の徹底した活用が重要である。」との挨拶があった。

基調講演
「総額人件費管理と高付加価値経営へのアプローチ」

 基調講演では、東京経営者協会参与(元日経連常務理事)の成瀬健生氏が、付加価値を生み出すための基本である資本の蓄積と人材育成および総額人件費管理の重要性について講演。
 成瀬氏はまず、日本企業がこれからの国際競争を勝ち抜くためには、高付加価値経営へのシフトが不可避であり、具体的には「高加工度化」、「コスト低減」、「差別化」、「製品・商品戦略」、「情報・知識の活用」などにより企業の付加価値を高める努力が必要であると述べられた。また、技術革新のための資本投下と人材育成が、高い付加価値を生み出す「基本の柱」であり、投資を行うための資本蓄積と、技術・製品の高付加価値化による人材育成との間に好い循環を生み出すことが重要であると強調した。
 一方、資本の蓄積、利益の内部留保が企業成長の源泉であることから、労働分配率と資本への配分の間にバランスをとることが重要であり、昨今のわが国の労働分配率が73%にも上ることから、賃金に関しては従来の昇給積み上げ方式は限界に来ていると指摘。企業経営には総額人件費管理の視点が重要であり、マーケットを意識した賃金水準、柔軟な雇用のあり方の検討などが必要であると述べられた。
 ただ、長期的視点を欠いた人事施策は中核となる人材育成の機会を損ない、中長期の企業の発展にはマイナスになるとし、日本的経営における長期的な視点の重要性も強調した。

パネルディスカッション
「高付加価値事業を展開する元気ある企業の人事戦略」

 続くパネルディスカッションでは、それぞれに特徴のある経営で業績をあげている河村電器産業(愛知)の伊藤保徳副社長、セイノー情報サービス(岐阜)の孫工昇嗣社長、おやつカンパニー(三重)の松田好旦社長の3氏がパネリストとして登壇。成瀬氏のコーディネートのもと経営トータルの中での人件費管理や人事・賃金制度と従業員のモチベーションに対する考え方などについて中身の濃い意見が交わされた。

 伊藤氏は、河村電器産業ではチャレンジ精神の涵養を人事戦略の柱として位置づけていると説明。「やった人が報われる」ことをベースとする能力・成果主義処遇や「半年俸制」の導入だけでなく、個人ごとの目標管理基準を社内LAN上で公開することによる評価の透明性の確保や社内公募制の実施、またトップ自ら講師を務める「経営塾」など密度の濃い人材育成といった多彩でユニークな制度の概要が紹介された。また、人事の要諦は「どれだけ人に注目できるか」である、という経営者としてのポリシーも示された。
 セイノー情報サービスの孫工氏からは、人が資本であるIT産業の宿命として労働分配率が非常に高く、経営として社員ひとりひとりの育成が重要であるとの説明があった。人事制度面でも、会社が育てたい人物像を明確化することにより、社員が自分のこれからのキャリアをイメージできるようにすることや、加点主義による評価を行うことが従業員のモチベーションに関して大きなポイントであるとの考えが示された。
 松田氏からは、おやつカンパニーでは総額人件費管理の視点から、業容の急拡大(4年間で2.1倍)にかかわらず正社員200名体制を堅持しており、生産拡大への要員対応はOBの再雇用や製造現場要員のパート化、外部工化で対応しているとの説明があった。多様な社員が混在する職場で、付加価値向上とモラールアップの双方を同時に追求するため、立場にかかわらず仕事の成果に関わる情報を共有し、福利厚生面でも分け隔てなく処遇することなどが重要であると述べた。また、チャレンジと革新の風土づくりは社長にしかできない重要な仕事である、との考えが示された。

パネルディスカッション
「成長企業の人材育成」

 パネルディスカッションでは、日本メナード化粧品(愛知)取締役人事部長の服部和行氏、鍋屋バイテック(岐阜)社長の岡本太一氏、ぎゅーとら(三重)社長の清水良英氏がパネリストとして登壇。佐藤先生のコーディネートで、各社の求める人材像や社員が自ら能力を伸ばそうとする意欲の喚起策、中期的なキャリア形成など様々な視点から人材育成について意見が交わされた。
 服部氏は、同社が化粧品の訪問販売を中心とする事業形態のため、お客様等との人間関係を構築する能力を重視しており、部門や性別を問わず、新入社員全員に2、3ヶ月の訪問販売研修を行っていると述べられた。また、全社員の6割が女性社員という人員構成の中で、昨今は女性の力の発揮が目覚しく、30代半ば以降も継続して力を発揮してもらう仕組みを、いかに構築していくかが今後の課題であると述べられた。
 岡本氏は、ニッチな市場に絞り込んだ事業戦略が自社の強みであり、創造的なモノ作りができる人材の育成を経営理念としていると述べられた。また、収益をあげるために社員自らが勉強するクセをつけることが大切であるとの考えを示し、資格取得者に毎月手当を支給する同社の「マイスター制度」などを紹介した。
 清水氏は、能力は「やる気×やる気×技術」であるとの考えを示し、人材育成においてはいかに社員のやる気を引出すかが重要であり、経営者がまず社員に期待し、権限と責任を与えることが大切であると述べられた。
 さらに経営者は、わかりやすい言葉で社員に語ることが必要だと指摘するとともに、小売業ではパート社員はお客様に近い存在であり、パート社員を大事にする姿勢がお客様の尊重につながると述べられた。

特別講演
「質と企業経営」

 特別講演では、花王特別顧問の常盤文克氏から、ご自身の世界観や花王におけるものづくりの視点を紹介しながら、「質と企業経営」について講演が行なわれた。
 常盤氏は始めに「失われた10年」を振り返り、これまで日本はグローバル化を「米国化」と捉え、米国をベンチマークとしてきたが、不況下にある日本は、ものづくりの伝統があり、多様な生き方が活力となって紆余曲折があっても切り抜ける術のある欧州のスタイルに目を向けて対応すべきであると述べられた。そのうえで、グローバル化とは自分のアイデンティティを持って生きることであり、日本としての「質」をしっかり持つことが重要である、と述べられた。
 企業においても、量から質、画一から多様へと移行する社会の中で、自社のアイデンティティを持つことが大切であり、異質を受け入れること、ものごとを統体(システム)として捉えることが重要であるとの考えを示された。
 続いて、花王の経営における垂直統合志向についてふれ、原料からマーケットまで全てを押えることにより、経営にスピードが出ることや川下の動きが川上にフィードバックし易い利点がある一方、周り(ヨコ方向)が見えなくなる弊害もあり、外部リソース活用など「外」との接触を積極的に行った例が紹介された。
 また、「ものづくり」とは工場ラインだけで完結するのでなく、顧客に届けるまでの全てがそれであるとの考え方を示し、品質維持のためには商品の社会的有用性、創造性、コストパフォーマンス、マーケティング、流通適合性、現商品の絶えざる改良によるブランドの堅持が大切であると述べられた。
 最後に、企業はそれぞれ特有の「型」をもっており、その「型」を作っている社員ひとりひとりが繋がって集団の力になっているところが日本型の良いところであり、その企業の底流に流れる型(「黙の知」)を活かしていくことが、これから一層重要であるとの考えを示された。