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会報

日本VS中国 中国の強み、日本の底力

政策研究大学院大学 教授 橋本 久義

はじめに

 私は15年前から毎週木曜日には工場に行くことを続けている。これまで2,508の工場を訪問してきた。なぜこうした訪問を続けているかというと、中小企業の社長さんに魅力的な人が多かったというのが1つである。初めはなぜかわからなかったが、数多く訪ね歩いているうちにわかった。考えてみれば、大企業には、自ら望んで入社してきた従業員がいる。しかし中小企業に自ら望んで入社したという従業員はまずいない。何かのはずみで入社したという従業員がほとんどであり、そうした従業員に定着して働いていってもらわなければいけない。また、そうした従業員たちによって、立派な会社を作っていこう、良い製品・サービスを提供していけるように努力していこう、という風土を醸成していくためには、社長に人徳がなければどうしようもないのである。
 もう1つの理由は、たった5人しか従業員がいない工場でも、そこでの生産プロセスをながめていると、必ずなるほどと感心する工夫をみることができるからであった。
 こうした理由から中小企業の工場を実際に訪問することを続けている。

中小企業における2つの困難

 現在、中小企業は大変な困難に直面している。これまでにも困難な不況の状況はあったが、これまでとは全く違うという状況が大きく2つある。
 1つはこれまでと異なり、金融機関自身が傷んでしまっているということである。中小企業に救いの手を差し伸べようにも、自らが存亡の危機に瀕しているのである。
 もう1つは、中国の台頭である。韓国や台湾などの台頭においては、それらの国々の産業が活性化することで、日本国内の中小企業が潤う部分もあったし、根こそぎ日本からなくなるという心配をする人はいなかった。ところが、中国では鉛筆からロケットまで、ハイテクからローテクまで、自国内で生産することができる。日本が、根こそぎ中国にのみこまれてしまうのではないか、と懸念する中小企業者がきわめて多くなっている。

華僑による融資

 中国の発展を考える上で、あまり話題になっていないが、アジアの華僑財閥の力が非常に大きいという事実がある。アジア経済の4割は華僑が握っているといわれているが、中国が資本主義国家と仲良くなってくるにつれて、こうした華僑の人たちの心の中に、中国のために貢献したいといった、「故郷(ふるさと)意識」が芽生えてくるようになった。中国の大学をのぞいてみるとよくわかるが、そこら中に新しい建物が見受けられ、それらはすべて、様々な国々に渡った華僑からの寄贈により建てられたものだとの銘板がついている。
 実はそれだけではなく、彼らはシンジケートローンを組んで、中国の伸び盛りの企業への融資をも行っている。豊富な資金力の華僑が行うことなので、時として無謀とも思える融資が行われる。その典型が格蘭仕(ギャランツ)という会社の例で、ここはもともとダウン羽毛のコートを作る工場であったが、1993年に突如として電子レンジの生産に参入した。徹底的な低コスト作戦により、他社製品の4割安という低価格を実現し、  2002年現在で年産1,500万台を実現している。かなり気前のいいスポンサーからの資金が、こういった形でも投入されているわけである。

中国のシリコンバレー

 北京に海淀区という所があるが、ここには北京の68大学、213研究機関が集まっている。それが大頭脳集積地域となった。
 同じ分野の研究者が研究交流会を開きたいとか、自分の研究所に無い設備を借りに行くといった時でも、電車に乗るまでもなく自転車で行けるのである。こうした便利さも手伝い、シリコンバレーから若手の研究者達がどんどん集い、今や中国のベンチャービジネスの大発信基地となっている。

東南アジア諸国との違い

 中国がなぜ他の東南アジア諸国が越えられなかった壁を越えられたか、という点について考えてみると、誰でも思いつくのは、安くて豊富な労働力と、お金が大好きという国民性である。それ以外で私独自の見解が(1)文化大革命(2)共産党(3)天安門事件の3つであり、これらが他の東南アジア諸国と決定的に違っているところである。

 まず、文化大革命は中国の科学技術を30年遅らせたと言われているが、確かにその通りである。ただ、モノづくりということだけに関して言えば、他の国では絶対に出来ないことをやっている。それは「現場が一番偉い。」という風土を作ったことである。中国では現場の労働者出身でなければ、共産党の幹部には絶対になれない。つまり経営陣に加われないということになる。東南アジアでもの作りがうまくいかないのは、経営陣と現場労働者の意識の乖離によるところが多い。中国では現場出身者が必ず経営者になるので、否が応でも現場優先ということになる。
 また、文化大革命により、「頑固な権威者」がいなくなった。それにより20代〜30代の若い人たちが中国の新しい産業を築いていくことにつながった。このことも中国発展の大きな要因である。
 次に、共産党というのは仲良し集団ではなく、組織であり、規律があって、規約があって、活動があって、活動しなければ共産党員ではなくなってしまうのである。党員である限り、組織の指示があれば何が何でもやらねばならない。こうした共産党における、かなり密度の濃い活動の中で、品質管理を徹底しろなどといった指導が行われているものと私は確信している。なぜなら、5年前とここ1〜2年とで比べた中国人労働者に対する評判が、あまりに違いすぎるのである。この1年ないし2年で激変している。このように一斉に変化するためには、共産党の力が貢献しているのではないかと思う。
 もう1つは天安門事件であるが、この事件そのものは中国にとってマイナスであったことは間違いない。しかし、当時の中国首脳は事件に対する外資系企業の反応を見て、非常に危機感を抱いた。せっかく集めた外資系企業が、事件によりどんどん引いていってしまったのでは、改革開放がまったく意味をなさなくなってしまう。そこで、さらなる大改革を行った。その1つが外資100%を認めたことである。それまでは51%以上はほとんどに認められなかったが、これを機に比較的簡単に認められることとなった。さらに中国国内での商売を認めたということも大きい。そのおかげで外資系企業が現地企業に部品を売ることができるようになり、現地企業は品質がどんどん上がっていき、技術が発展し好循環につながっていった。
 これらの政策が行われていなかったら、今の中国の発展はなかっただろうと、私は考えている。

中国の限界

 それでは日本はまったくダメなのかというと、そうではない。中国にも限界があり、いくつかポイントがある。1つは為替レートである。現在1元15円であるが、いつまでも15円のはずは無い。日本も中国には参っているが、東南アジアはもっと参っている。日本はブランド力もあり、日本でしか作れないといったものをたくさんもっているので、まだ何とかやっていける部分はある。しかし東南アジアは違う。今の中国元のレートではとてもやっていけず、アジア通貨との関係により、中国元は変わっていかざるを得ない。その時、日本円もアジア通貨について動くであろう。よく調べてみれば、1990年頃までは1元30円だったのである。しかし中国の力がどんどん強くなるにつれて、どんどん元が下がっていった。本来上がるべきであった元が、逆に下がってしまったことが、日本に大きな影響を与えたのである。それを少し戻してくれということは、あながち無理な話ではない。
 また、新製品のスピードの問題もある。これがどんどん早くなってきて、わざわざ中国で作るよりも日本で作るほうが効率的ではないかという品物が増えているのである。
 さらには、知的財産権の問題である。中国ではこれについての制度が確立されていないと同時に、真似されるとしたら、されるほうが悪い、だまされるやつが悪いという考え方が根深く、トップシークレットの新製品がライバル会社に流出してしまうといったことが、頻繁に起こってしまうのである。
 そして、根本的な問題として中国は中華思想の国である。今でこそ日本には学ぶべきことが多いと思っているので、日本人の意見をよく受け入れる。しかし、もはや中国人が日本に学ぶべきものなしと、思い始める日がまもなくやってくるであろう。日本人はいつまでも学び続ける志の人が多く、謙虚でコツコツ真面目に研究を続けることができる。そここそが日本と中国との分かれ目になるものと私は確信している。

 (本稿は9月26日の本会理事会講演会にて、橋本氏からご講演いただいた内容に基づき事務局で編集したものです。