「2002年労組大会」 ― 春闘再構築が中心議題に ―
日本労働研究機構 週刊労働ニュース編集長 荻野 登
1.賃上げ統一闘争は大きく転換へ
2002春闘は、3年続きの物価下落と国際競争力の低下が賃金交渉に重くのしかかり、厚生労働省集計で民間主要企業の賃上げ率は1.66%で、1955年に春闘方式が始まって以降、過去最低となった。一方、国家公務員一般職に適用される人事院勧告も、制度設立以来はじめて、月例給与について扶養手当を含めて2.03%のマイナス改定を勧告した。
こうした結果を踏まえて、各組合は夏に開いた大会で、春闘の結果を総括するとともに、今後の対応策を議論した。まず連合は、今春闘で具体的なベースアップ要求額を示さず、統一要求基準を「賃金カーブ+アルファ」と設定し、結果的にベア要求を見送った産別が多かったことから、「うまく機能したとは言い難い」と反省。「これまでの延長ではいかない」(笹森清会長)ことを痛感させられた連合は、来春闘では統一的な賃上げ要求基準を示さず、各産業別組織の主体性に委ねる方向を固めている。具体的な要求の枠組みは11月の中央委員会で確認する。
一方、交渉リード・相場形成役の金属労協(IMF-JC、鈴木勝利議長)は9月の大会で早々と、2003春闘での統一的なベア要求見送りを打ち出した。「成長を支えてきた国際競争力は高コスト構造でその力を著しく減退させた」(鈴木議長)ため、労組側も賃上げのコスト増を吸収できる状況にないと判断せざるを得なくなっている。金属労協傘下では、いまのところ来春闘でべア要求する姿勢を明確に示しているのは自動車総連だけという状況だ。
2.ミニマム規制に重点移す連合、JC
こうした統一的な賃上げ要求に代わり、連合、金属労協とも重視しはじめたのが、法定最低賃金といった労働条件にかかわるミニマム規制の取り組みだ。
連合は、賃上げ交渉についてはもともと1989年の設立当初からの役割分担である産別統一闘争に対する調整役に徹し、35歳の標準的な生計費に基づいたミニマム確保に取り組むことを提起している。あわせて、すべての組合が共通して取り組む事項として、「景気回復と雇用を中心とした制度政策要求の実現」や「賃金カーブ確保」「不払い残業の撲滅とワークシェアリングの推進」、「企業内最低賃金」などを「最重点課題」に設定。賃上げについては、各産別とも「賃金カーブ確保」を最低条件に企業業績に応じた水準の引き上げを図り、情報開示に努めることを求めている。このように、連合は傘下産別との機能・役割分化をより明確にすることになる。
また、金属労協もその時々で調子のいい産業が賃金交渉を引っ張り、上位平準化を目指した時代は終わりを告げたとの認識から、格差是正に運動の重点を移す方針を大会で確認した。具体的な取り組みの柱として、(1)規模間格差を是正するための標準労働者の最低到達目標の設定(2)非正規労働者の賃金底上げのための企業内最賃協定の締結促進(3)法定・産別最低賃金の取り組み強化を盛り込む方針だ。また、これらの運動を促進するため、組織内に「最賃センター」を設置する。
3.中小からは統一要求基準求める声も
しかし、こうした動向に対して、大手と中小零細との賃金格差を縮めるためにも、連合に対して、「統一要求は必要だ」との異論もある。全国一般や私鉄総連などは産別大会の中でも、賃上げ統一要求基準の設定を連合に求めていくことを確認しているし、初の賃下げが間違いなくなった官公労も統一的ベア要求の見送りは、事実上連合が春闘離脱することを意味するとして、反対の意向が強い。
とはいえ、「連合組織内で月例賃金で20万円の格差があるなかで一律対応は無理」(笹森会長)との考え方が有力で、中小・地場向けの賃金引き上げ指標の設定といった別の処方箋で、来春闘に臨むことになりそうだ。
4.ゼンセン・CSGが統合し民間最大産別に
昨年から勢いを増してきた産別統一の動きがさらに進展した。9月19日に,ゼンセン同盟(58万人)、化学関係や中小組合を組織するCSG連合(18万人)、繊維生活労連(2千人)が統一し、UIゼンセン同盟が誕生した。組織規模は、これまでトップを争っていた電機連合と自動車総連(両組織とも72万人)を凌駕し、一躍民間最大産別に躍り出た。初代会長には高木剛・ゼンセン同盟会長が就任した。
このほか、この統合の影響もあり、化学・エネルギー関係産別の再編も進み、10月10日には化学リーグ21、石油労連、新化学、全国セメントの5組織が統一し、JEC連合が旗揚げの予定である。化学総連(6万人)も組織を存続させたまのブリッジ加盟の形式で参加する。組織規模は18万人。新組織立ち上げには名を連ねなかったものの、化学・エネルギー関係の大産別構想を議論してきたJEC懇談会には、この6組織のほか紙パ連合、電力総連、ゴム連合、全国ガス、セラミック連合も加わっており、数年のうちにこれらの産別が相次いで参加することも予想される。また、食品連合(10万人)と食品労協(2万人)が統一し、11月19日にフード連合(日本食品関連産業労働組合総連合会)が発足することになっている。
さらに、夏の大会では、鉄鋼労連、造船重機労連、非鉄連合が、来年9月に統合して結成される新産別「基幹連合」へ移行を最終確認。また、若干の足並みの乱れはあったか゛私鉄総連、交通労連、運輸労連、全自交労連の4産別も、将来的な4組織統合による新産別結成の第一歩として、連合加盟単位の一本化を年内に図ることを決めた。
5.大多数が要求見送りへ、電機など職種別賃金決定を模索
造船重機労連や鉄鋼労連の大会では、それぞれ委員長がデフレや国際競争が激化の一途をたどる経済状況を踏まえ、毎年のベア要求は難しいのではないかとの考えを示している。さらに隔年交渉に移行している鉄鋼労連では、次回2004年の春闘から毎年のベアではなく2年単位で賃上げを決める方式の検討に入るとの考えを示した。
一方、電機と自動車は、職種別賃金の決定機能を春闘に求める動きを強めそうだ。電機連合は、「製品組み立て」「機械加工」「システムエンジニア」(SE)など、職種ごとに賃金水準の改善と産業内横断をめざす「職種別賃金決定方式」の確立に向け、賃金実態調査に着手している。組合が関与しない間にIT技術者の賃金相場が形成されることを食い止めるためにも、最終的には、春闘では勤続を前提とした代表銘柄(35歳・勤続17年など)の水準確保・到達闘争から職種別賃金決定闘争への脱皮をめざすとしている。
自動車総連も職種や技能を軸にした絶対額による要求根拠づくりに踏み出す意向を固めている。国際競争力が争点となり、ベアゼロ基調となった今春闘の反省を踏まえ、金属労協を中心に職種別賃金を重視した賃金闘争に大きくカーブをきることになりそうだ。
このように、来春闘に向けた賃上げ要求の動向は、今年と同じくほとんどの産別がベア要求見送りに傾きつつある。一方、中長期的な春闘再構築策としては、ミニマム規制による労働条件の底上げと、職種(絶対額)を重視した賃金決定方式にシフトする兆候が今年の大会で鮮明になったといえる。

