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懲戒処分をめぐる法的留意点の検討
−「第92回 労働法フォーラム」概要報告−
日本経済団体連合会・東京経営者協会共催、経営法曹会議協賛による標記フォーラムが6月6・7日の両日、東京で開かれ、全国から企業人事・労務担当者230名、経営法曹弁護士96名が参加しました。今回は、「懲戒処分をめぐる法的留意点」をテーマに、2日間にわたって発表・報告が行われるとともにそれぞれ質疑応答がなされました。
以下、研究報告の概要について紹介いたします。
<研究報告T>
各種懲戒事由と処分の種類および有効要件について、弁護士の種村泰一氏から報告がなされた。報告では、企業が懲戒処分を行う際の有効要件を確認したうえで、最近の判例を参照しながら、日常の労務管理で起こりうる様々な場面での処分とその有効性を検討した。また最近の問題として、携帯電話やパソコンの利用にからむ問題での懲戒処分についても検討した。
懲戒処分の有効要件
懲戒処分は従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰であり、処分が有効であると認められるためには、企業秩序に違反する行為が存在すること、懲戒に関する規則が存在すること、行為が具体的に規則に該当すること、処分を行うことに合理性があること、処分が適正な手続きを踏んで行われていることが必要とされる。
勤務成績不良で懲戒処分ができるのか
勤務成績不良とは本来、企業が求めるだけの成績を従業員があげておらず、十分な労務の提供がなされなかったということである。つまり、債務不履行の問題になるわけだが、その成績不良が会社の統制上多大な悪影響を及ぼし、企業秩序違反をきたす恐れがある場合には、懲戒処分の対象となり得る。
しかし過去の判例からみて、単に勤務成績不良であるだけではなく、これに関連して、規則・命令違反や本人に反省の姿勢が認められないといった事実、もしくは職場の士気の低下といった事実がないと、その懲戒処分は有効と認められない可能性が高い。
兼業禁止違反に対する懲戒処分の枠組
本来の勤務に関係のない時間を利用して、他の仕事に従事することは、私生活上の問題として考えられ得るが、それにより本来の勤務に支障をきたすことも有り得るので、そういった兼業をする場合に会社の承諾を必要とする定めを設け、それに違反した場合に懲戒処分を科すことは、従来の枠組からみて問題はない。
ただ、近時の問題としてワークシェア、個人の能力向上といった観点から、副業を積極的に認めていこうという企業もある。こうした傾向が広く社会的に広まった場合に、兼業禁止違反に対する懲戒処分の該当性や処分の程度が厳しく判断されるようになるものと予想される。
最近の携帯電話、パソコン等の普及に伴う事例
会社から貸与される携帯電話やパソコンを従業員が私的に利用した場合の懲戒処分については、従来からの会社の電話を使った私用電話の場合と同様に考えることができ、職務専念義務、職場での私的行為、企業秩序違反が問題となる。また、インターネットのホームページを通じて行われた会社批判、内部告発等については、ビラや書籍による会社批判の場合と同様、批判の内容が事実に基づいたものであるかどうか、動機や目的は何か、総合的に判断されることとなる。
研究報告Tにおける質疑応答の一例
【問】即戦力として高額の賃金を保証し中途採用した社員が、その期待に反して何ら成果をあげていない。この社員を勤務怠慢として懲戒解雇することは可能か。
【答】本人の怠慢により成果があがっていないのであればともかく、それなりに努力しているにもかかわらず結果として成果があがっていないというのであれば、査定を低位におさえ、あるいは人事権の範疇で降職、降格することは可能であるが、懲戒処分の対象とすることはできない。ただし、この社員が即戦力として、地位を特定して採用され、かつ高給で処遇されているという事実を勘案すると、契約不履行という点は指摘できるであろう。したがって、懲戒解雇は困難だが、契約違反として普通解雇とすることは可能だと考える。
<研究報告U>
懲戒処分を行う場合の手続きと規定解釈上の留意点について、弁護士の山崎隆氏から報告がなされた。報告では懲戒処分の根拠を確認したうえで、罪刑法定主義類似の諸原則や適正手続きの原則といった処分を行ううえでの基本原則を確認した。さらに、最近の判例を参照しながら、処分の種類とその適用上の留意点や、懲戒理由の事後的追加の可否など規定解釈運用上の問題点を中心に検討した。
懲戒処分の根拠
懲戒処分の根拠としては、労基法89条9項において、就業規則の作成および届け出に関して「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を盛り込むこととする実定法上の根拠がある。またその前提としては、富士重工業事件(最3小判 昭和52.12.23)判決により、「労働者は労働契約を締結して企業に雇用されることによって、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して企業秩序遵守義務その他の義務を負う」とする労働者の企業秩序遵守義務説が確立されている。
懲戒事由規定上の留意点
就業規則などに懲戒事由に関して規定する場合、「その他前各号に準ずる事由があるとき」といった包括的条項も有効である。しかしあまりに抽象的過ぎるのでは、解釈運用に疑義が生じる可能性が高い。したがってある程度の懲戒事由の類型化・具体化が望ましい。そうした場合に、刑法や刑法に関する特別法における条文やその規定の仕方などが参考になる。また戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇など、懲戒処分の種類は明確に列挙すべきである。
懲戒処分の際の手続遵守
労働組合が協議に応じない場合などを除き、組合との解雇協議条項など協約や就業規則で定められた手続は守るべきである。なお、懲戒処分を受ける者に理由を告げ弁明の機会を与えた方がよいが、就業規則にその旨の規定がなく、弁明の機会を与えなかったからといって、処分が無効となるわけではない。
懲戒理由の事後的追加
複数の懲戒事由により処分を行う場合、例示的に一部の事由を示した後、あらためて、処分時点で会社側が認識していた残りの事由については、事後的に追加できる。
しかし、応接態度不良などで懲戒処分を科した後、年齢詐称の事実を初めて知ったなど、最初の処分当時認識していなかった理由を事後的に追加することはできないので、二次的に懲戒処分を行うことで対処するほかない。
懲戒解雇から普通解雇への転換
懲戒解雇と普通解雇はおのずから内容が相違し、懲戒権の行使と労働契約解除の意思表示とは別物であるから、相互の転換は認めるのは相当でない。しかし、就業規則に普通解雇事由として「その他前各号に準ずる事由があるとき」といった包括条項があれば、懲戒解雇すべき事案でも普通解雇にすることは可能である。
行方不明者に対する告知方法
行方不明者に対する懲戒解雇の告知は、民法所定の簡易裁判所による公示送達の方法によらなくても、就業規則などであらかじめ告知方法を定めておけば、明らかに合理的でないなどの特段の事情がない限り、就業規則所定の方法で足りると考えられる。
研究報告Uにおける質疑応答の一例
【問】当社の就業規則では、懲戒処分について、その種類の定めはあるが、懲戒事由については別に定めていない。このような規定で懲戒処分を課すことは可能か。
【答】就業規則に定めがなくとも処分を課すことはできる。ただし、実務的な問題として、懲戒事由を定めないことは、どのような場合に懲戒処分が課されるか労働者に予測がつかないため、裁判所がなかなか認めてくれないので、政策的には適当でない。

